二十歳の頃

【サスケ】
[二十歳の頃]



「サースケーッ」

 真上から響いてきた馴染みのありすぎる声に、サスケは歩を緩めた。

 すたんっと目の前に金色の固まりが降って来る。

「よっ」

 にっと笑い、右手を額の辺りにかざす姿は、昔とちっとも変わっていなかった。

 ただ、あの頃はやや下にあった顔が、今は殆ど変わらない高さにある。
 お互いに、ずいぶんと上に伸びているけれど。

「何だ?」

「なんだじゃねーってばよっ!」

 オメー帰ろうとしてただろっ。

「今日は、酒酒屋で集まっからって、言っておいたよなーっ?」

「忘れてない」

「だったら、なんで、一人でさっさと帰っちまうんだってばよ?」

「……まだ時間あるだろうが、ドベ」

「ドベ言うなっ」

「用事がある」

 殆ど一息にこれだけの会話をしておいて、サスケは再び歩き出す。
 何事もなかったかのように。

「だーから、ちょーっと待てってばよーっ」

「だから、何だっ」
 
「先生たちが来る前に、ちょーっと仕込むもんがあっから早めにいかねえ?」

「仕込むもんって、オマエ…」

 あのクセ者ぞろいの恩師たちへなにやら仕掛けようと企んでいるのだろう。

 バカバカしいと思いながらも、未だに色々と歯の立たない師へ一矢報いるチャンスと考えれば、興味も湧いた。

 目の前の男のイタズラの手管は、恩師譲りのせいかはたまた親ゆずりか、結構センスがいい。

 その才能、少しは本業に活かせばいいものを、と思えるくらいに。

 サスケがその誘いに乗ってみようかと、頷いた瞬間。

「君タチ、なーぁに往来でイチャついてんのーぉ?」

 二人の間に、カカシが立っていた。

「カカカカカシっ!」

「うっわぁあっ! カカシ先生、いつ化けて出たってばよっ!」

「あんね、先生まだピンピンしてんだけど?」

 勝手に殺さないでくれる。
 イルカ先生も悲しむから。

 にやけ顔で惚気てみせる師に対し、サスケは首を傾げて穏やかに呟く。

「……そうか?」

 いっそのこと死んでやったほうが喜ぶんじゃないか、と言いたげに。

 だが、彼らの師はそんな嫌味など意に介さず、ふふんと鼻で笑った。
 
「分かってなーいね」

 あのイルカ先生が、誰か死んで喜ぶなんてことあるワケないデショ。

「そーだってばよっ! イルカ先生なら、どんなヤツだって死んでいいなんて思わないってばよっ!」

「………そうだな」

 ずいぶんと近くなった師に向かって、ニヤリとサスケは嫌な笑い方をしてみせた。

 さっくり止めを刺した本人は気付いていないけれど、里が誇るベテラン上忍は酷くショックを受けた様子だ。
 すっかり固まって、周囲がどよどよと薄暗くなってきている。

 いい気分でサスケは仲間の腕を引き、一歩を踏み出した。

「いくぞ、ドベ。じゃあな、カカシ」

「ドベ言うなってばよーっ! あ、カカシ先生、今日こそはぜってぇー遅刻すんなってばよーっ」

 それは、8年後のお話───



 【了】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/01/06
UP DATE:2005/01/22(PC)
   2009/11/16(mobile)
RE UP DATE:2024/08/05
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