二十歳の頃

【サクラ】
[二十歳の頃]



 用意された晴れ着を前に、サクラは盛大なため息を吐いてみせた。

 両親の気持ちは、分からなくもない。

 二十歳になった大事な可愛い一人娘を祝いたい、普通の娘と同じように着飾らせて親族に見せびらかしたいのだと。

 けれど、サクラは忍なのだ。

 年齢ではなく実績を持って、既に大人だ。

 今更、こんな晴れ着は恥ずかしいだけ。
 仲間たちに───特に、いのあたりに見られては、最後だ。

───絶対、絶対、ゼッタイ! バカにされるわーーーっ!

 格式高い家のお嬢様であるヒナタなら、それなりの体面やら体裁やらを理由に盛大な成人の祝をしてもおかしくはない。
 けれども、普通の家庭でなんてとサクラは思う。

───それに、親に色々用意されるなんて……

 周囲に親のいない者が多いせいか、未だに色々と世話を焼きたがる両親の存在はサクラにとってあまりありがたいものではなかった。
 
 まだ自分は一人前と認めてもらえないようで、淋しかったし、恥ずかしかった。

 けれどそれ以上に、本当はサクラが両親に礼をしたかった。

 自分の稼ぎでささやかな贈り物をして、両親の思いや健康を祝いたかったのだ。

「……でも、しょーがないか」

 これも親孝行だと思えばいい。

 そう呟いて、サクラは晴れ着に袖を通した。

 それは、8年後のお話───



 【了】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/01/06
UP DATE:2005/01/22(PC)
   2009/11/16(mobile)
RE UP DATE:2024/08/05
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