二十歳の頃

【イルカ】
[二十歳の頃]



 殆どの忍にとって成人というのは特定の年齢ではなく、自身が忍になったか中忍に昇格した時という認識だ。

 けれど、イルカは両親がことさら普通の生活に触れさせようと心を砕いてきたこともあって、世間一般と同じく二十歳で成人という思いがあった。

 飲酒、喫煙はそれ以前に経験済みであったし、祝ってくれる者もいない。

 それでも、二十歳という年齢を一つの区切りとして、慰霊碑に名を刻まれた両親へ花と酒でも供えにいくつもりだった。

 ついでに二十歳まで生き延びた報告をしてもいい。
 生き延びた、と言っても今はアカデミーで教師をしていて、そうそう命の危険に晒されることはないのだけれど。

 そしてその日、朝早いうちに慰霊碑の前へ立った。

 絶える事のない花や供え物の脇に用意してきた花を加え、いつもは注いでいく酒も3つの杯に注いで2つを供える。

「とーちゃん、かーちゃん、オレも自分の稼ぎで飲める歳になったよ…」

 あれから、10年。
 
 アカデミー生だったイルカは卒業し、下忍に、中忍になった。

 あの年に生まれた子供たち───あの日に生まれたナルトがアカデミーに通いだし、イルカが教師として彼らを受け持っている。

 色々と思うところはあるが、過ぎた年月以上の感慨は、今はなかった。

 けれど、そうでない者もいる。
 アカデミーで日々目にするナルトと、彼に接する人々の様子を思い返すと気が滅入ってくる。

 ふいに、背後に人の気配がした。

「やはり来ておったか、イルカ」

 3代目火影だった。

 振り返り、イルカはいつもの笑みを浮かべる。

「おはようございます、3代目」

「うむ」

 並んで慰霊碑の前に立つと、イルカの脳裏にあれから1年経った日が蘇ってくる。

 それは3代目も同じなのだろう。
 あの頃は下にあったイルカの顔を今は見上げ、くすりと笑いを零す。

「3代目、私に何か?」

「今日はおぬしに渡すものがあってのぉ」

「私に、ですか?」

 差し出された封書の束を見て、イルカは言葉を失った。

 見間違うはずもない、懐かしい筆跡で『イルカへ』とある。

「お主が生まれた年からずっと、託されておってなぁ」
 
 万が一、イルカが二十歳になった時、夫婦揃って居なくなっていたなら渡して欲しいと。

「よう、育ったのう、イルカ」

「3代目……ありがとう、ございます」

 受け取った10通の手紙の厚さに、イルカはこらえきれずに涙を流す。

 胸に抱きこむと、温かさが伝わってくるようだった。

「……とーちゃん、かーちゃん……」

 ありがと。

 小さく呟くイルカの肩に置かれた3代目の手は、あの日と同じように温かだった。

 それは、2年前のお話───



 【了】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/01/06
UP DATE:2005/01/22(PC)
   2009/11/16(mobile)
RE UP DATE:2024/08/05
2/5ページ
スキ