君の生まれた日

【黄昏】
   ~ あの秋の日 05 ~
[君の生まれた日]



 夜明けから立ち尽くしていた慰霊碑からの帰り道。
 まだ混乱の続く里の中枢を避け、カカシは被害の少なかった里の外れを歩いていた。

 この辺りは先生のお気に入りで、よく鍛錬や任務の帰りにわざわざ遠回りをして通った記憶がある。

 ただその頃は、先生の心情などこれっぽっちも思いやれず、こっそり文句をいった覚えもあった。

 そんな些細なことすらも、今は悔やまれる。

 こんなことになるなら、もっと話をすればよかった。
 ちゃんと、見ておけばよかった。

 思い出の道を歩いても、この道のなにがあの人を惹きつけたのか分からない。

 知らず、カカシの足は止まっていた。

 気持ちの重さに耐え切れなくなっていた。
 もう1歩も歩けない気がした。

 暗澹とする心と同調しているかのように、空はどんどんと明るさを失っていく。
 
 もう、すれ違う人の顔さえ分からない。

 分かるのは髪を1つに結い上げた子供で、泣いているのだろうということだけ。

 ふらふらと過ぎ去っていく子の足取りは覚束ない。

 けれど、自分の気持ちさえ持て余しているカカシには、まだその子を気遣ってやることもできなかった。



 【了】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/10/10
UP DATE:2005/10/20(PC)
   2009/10/01(mobile)
RE UP DATE:2024/08/05
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