ショコラ

【彼と彼氏の事情】
[ショコラ]



「イルカ先生、アレなんでしょーね」

 そう言ってカカシが指し示したのは、店先に積まれた可愛らしい色合いの包みの山。

「ああ、もうそんな時期なんですね」

 イルカはさして興味もなさそうにカカシの示す先を一瞥し、喧騒が遠のいてゆく日暮れの商店街を先へ歩いていく。

 その後ろをのんびりとついて歩きながら、カカシは問い返した。

「……そんな時期……デスカ?」

「バレンタインデー、ご存知ないんですか?」

「は……ああ、バレンタインデーですか」

 半ば確信的なイルカの問いに、カカシもようやくその行事の存在を思い出す。

「詳しいことは全然ご存知アリマセン」

 そう言って、カカシは自身の認識するバレンタインデーなる行事を述べてみた。

「ま、オレにとっちゃあ見ず知らずの人間から何入ってるか怪しいモンを押し付けられるはた迷惑な日、ですかーね」

「……でしょうねえ」
 
 ため息そのものの相槌を返し、イルカも自身の見解を口にする。

「オレとしては、中元歳暮に次ぐ義理と世間体の板ばさみの日です」

「……それはなんというか、大変ですね……」

 互いに顔を見合わせ、ふうとため息をこぼす。

「ね、イルカ先生」

「なんですか?」

 歩みを止めず、店先に並ぶ夕餉の食材を見繕いながら、カカシは問い、イルカが答える。

「そもそもバレンタインデーってどういう日なんですか?」

「……聞いて面白い話じゃあ、ありませんよ」

 そう前置いて、イルカは話始める。

「昔、ある国の皇帝が結婚禁止令を出したんです。既婚者は兵役を免れるって法があったので、徴兵間際にとにかく結婚してしまう若者が増えたからなんですけど……」

 話しながらもイルカは八百屋で大根と白菜と葱を買い、オマケに柚子を貰う。

「その法に逆らって、若者たちを結婚させていて、皇帝に処刑された人がバレンタイン司教という人らしいです」

 だからバレンタイン司教の殉教記念───つまり処刑された日が、バレンタインデーなんです。
 
「後年、愛し合う者同士が贈り物をしあう日になった……んですけどねえ……」

 魚はもうあまりいいものがなく、肉屋へ移動しながらもイルカの話は続く。

「その習慣がこの辺りへ伝わるまでに、どこでどう捻じ曲がったのか……片思いの女性がチョコレートを意中の男性に贈って告白をする日になってましてねえ……」

「あ、だから甘いモノばっかだったんだ」

 なるほど、と手を打って納得するカカシに、イルカの生ぬるい笑顔が向けられた。

「さぞ大量に戴くんでしょうね」



 【ホワイトデーに続く?】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/02/02
UP DATE:2005/02/20(PC)
   2009/02/09(mobile)
RE UP DATE:2024/08/01
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