One Day

【お留守番】
   ~ ある秋の日 05 ~
[One Day]



「じゃあね、イルカ」

 そう言って顔を覗き込み、頭を撫でてくる。

「夕方には父さん帰ってくるはずだけど」

「遅くなるようだったら、1人で夕飯食べてろってんでしょ」

 もう20回も聞いたよ。

 子ども扱いする母親へふて腐れてみせた。

「いつものことだろ。大丈夫だよ、もう」

「そうね。いつものことだもんね」

 この任務が決まってからずっと、いない間のことも、いつ帰ってくるかも、もう何度も言っている。

「かーちゃん心配しすぎなんだよ。ボクもう10歳なんだよ」

 そう胸を張るイルカは忍者アカデミーにも通っている、言わば忍者候補生だ。

 両親の仕事も、それがおぼろげながら分かっている。
 時には命がけになり、どんな任務でも万が一ということがあることも。

 だから長く里を空ける前の両親が何度もイルカを心配する言葉を繰り返す気持ちも。

 でも、もうこれはいつものことだ。
 
 今生の別れのようにして出て行く両親が無事に戻ってくるのが当たり前になっている。

「そうね」

 気恥ずかしさと慣れに、あわせたいより子供特有のつっぱる気持ちが強いイルカの顔をもう一度覗き込んだ。

「しっかりお留守番してるイルカに怒られないように、しっかり任務こなしてきましょう」

「そうだよ、かーちゃん」

「じゃあね、イルカ」

 こんどこそ、母親は子へ手を振った。



 【了】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/09/30
UP DATE:2005/10/10(PC)
   2009/09/20(mobile)
RE UP DATE:2024/08/05
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