夏の終わり

【秋味】
   ~ 夏の終わり 05 〜
[夏の終わり]



 夕食の買い物に活気付く商店街。
 店先に並ぶ旬の物を目にして足がとまる。

 まだ出始めでそこそこの値段だが、手がでないほどではない。
 それに旬の物は、今がおいしいからこその旬なのだ。

「おじさん、その秋刀魚2尾下さい」

「はいよっ! まいどあり、イルカ先生」

 代金を渡し、魚の入った袋を受け取って歩き出す。
 道々、調理法を考えながら。

 定番の塩焼きは、大好物の人間がいる。

 ただ、なんとなく今日は煮付けにしたのが食べたかった。
 ほぐした身にこってりと脂が溶けた煮汁と針生姜を絡めて、飯で一緒にかき込むのを思っただけで喉がなる。

「あー、ビールも飲みてえなあ」

 酒屋を覗けば、秋限定の新商品が並んでいた。
 それを幾つか見繕い、重くなった荷をしっかりと持ち直して家路を急ぐ。

 1人暮らしのはずの自室には灯りがついていて見慣れた男が出迎えた。
 
「おかえりなさーい、イルカせんせー」

「ただいまもどりました。すぐ飯の支度すんで、先に風呂でも……」

 言いかけた言葉を遮って、耳元で嬉しそうなささやきがする。

「あ、秋刀魚ですかー。もうそんな時期なんですねー」

「ええ。あとビールも季節限定の買ってきちゃいました」

「最近は色々あるんですねえー」

 イルカが手を洗っている間に、男は荷を開けて使うもとのしまう物を分けていく。

「近頃は野菜や魚の旬が希薄になってますから、その分季節感を取り入れた商品が人気あるのかもしれませんね」

 限定って言葉も、購買意欲をあおるみたいですし。

 自分でものせられたという感が否めないのだろう。
 頬を掻きながら照れ笑うイルカの背に、ひどく納得したカカシの声がのしかかった。

「確かに、今のイルカ先生は今しか味わえませんもんねー」



 【了】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/08/30
UP DATE:2005/09/05(PC)
   2009/08/27(mobile)
RE UP DATE:2024/08/05
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