夏の終わり

【ひと夏の経験】
   ~ 夏の終わり 05 〜
[夏の終わり]



 よろめくように自宅を出たサクラは、今日も容赦なく照り付けてくる太陽をにらみ付ける。

 けれど淀んだ瞳に力はなく、返って強い日差しに目を射抜かれて痛みすら感じた。

 できるだけ日陰を選んで、ゆっくりと修行場までの道を辿っていく。

 昨夜の出来事を───短い夏の夜の熱に浮かされた自分の若さを、後悔しながら。

 昨日は早々に仕事を切り上げた上機嫌の師匠───5代目火影の綱手に、姉弟子のシズネと共に有名な料理屋へ連れて行かれた。
 日の暮れ掛かった涼しい川床でとびっきり美味の料理を勧められ、日々の熱心さと上達ぶりを誉められて労われて。

 そしてごく自然に、渡された杯を飲み干してしまった。

 飲みっぷりに気を良くした師匠に進められるまま、杯を重ねていったことは覚えている。

 あと、ものすごく気分が良かったことも。
 
 ただ、自分がどれだけの量を飲んだのか、そしてどうやって自宅へ戻ったのかはまったく記憶にない。

 今朝の両親の様子から、何事かはあったのだろう。
 だがサクラは何一つ、覚えていなかった。

 自分から昨夜のことを聞いて回る気には、とてもなれない。

 自慢の記憶力も、酒の前には無力なのだと知っただけでも良かった。
 そう思うしかない。

 もう2度と、あのうわばみのような師匠の勧めにだけは乗らないように気をつけなければ。

 忍術と美貌以外のことで、綱手の名を引き継ぐようなことだけは御免被りたい。

 そんな決意を握った両拳に込め、サクラは歩き出した。



 【了】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/08/30
UP DATE:2005/09/05(PC)
   2009/08/27(mobile)
RE UP DATE:2024/08/05
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