夏の終わり

【夏休みの宿題】 
   ~ 夏の終わり 05 〜
[夏の終わり]



 アカデミーの夏休みが開け、イルカは再び教師としての日々にもどっていく。

 もちろん夏休み中も『先生』としてアカデミー内の雑務をこなし、任務受付もしていた。
 そして、忍者として里の外へ任務にも。

 だから厳密に言えば、イルカにとって夏休みは休みではなかった。

 けれど実際にアカデミーは休み。
 子供たちに課したたっぷりの宿題は、そのまんま、新学期で忙しい彼の生活を圧迫する。

 アカデミーの授業後、任務の振り分けや報告書の処理業務につく。
 その日の授業の進み具合から明日からの予定を立て、テストや宿題の採点をする。

 夏休みの宿題のチェックはその合間か、後にしなければならない。
 例えば昼休みや、自宅へ帰ってからの時間を潰して。

「イルカ先生は働き過ぎデス!」

 カカシの声を背中に、確かにそうかもしれない、なんて他人事のように考える。
 しかし、目と手は広げたノートのページを追って、時々赤ペンでチェックを入れていた。

「大体、毎年この時期は忙しいって分かってんですから、受付業務だけでも外してもらうとかすればいいデショ」

 確かに、その通りだ。

 心の中で同意しつつも、イルカは手を止めず、振り向きもしない。

「今日だって、夕飯にカップ麺のび切った冷えひえのすすってっ! どーせ、朝も昼もまともに食べてなんデショ? そんなんじゃ、身体壊しますヨ! 忍者は身体が資本なんデス! 先生がそんなんじゃ、子供らに示しつかないヨっ」

 口うるさいカカシの小言にペンをおき、ドリルを閉じる。

 椅子を引き、身体ごと振り向いた。

「カカシさん」

「な、なんですかっ。イルカ先生っ」

 久しぶりに呼んだ気がするその人は、何故か怯えたように直立不動となる。

 黙って膝を叩けば、人馴れていない野良猫のようにおずおずと近寄って来た。
 そうっと膝に触れようとしてくる腕を無視して、思い切り良く抱きしめる。

「……なっ!? いいいイルカ、せんせえっ?」

 腹のあたりに押し付けられたイルカの頭から、くぐもった声がする。
 
「充電、させて下さい」

「はいっ。喜んで~」

 カカシは嬉しそうに座っているイルカの低い肩を強く、柔らかに抱いた。



 【了】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/08/30
UP DATE:2005/09/05(PC)
   2009/08/27(mobile)
RE UP DATE:2024/08/05
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