天国への段階

【ラストサマー 2 ~夏の夜の夢~】
   ~ 夏休み 05 ~
[天国への段階]



 下忍たちが今夜、百物語をするのだと不思議そうに報告する男。

 里が誇るエリート上忍には、人外の世界の物語を楽しむ幼少時代などなかったらしい。

 そこで、簡単に再現してやったのだ。
 百物語を。

 カカシと違って、イルカはこういったおアソビには率先して参加しているクチだった。

 教師なんてものをやっているおかげで、未だに子供相手にやることも多いからネタも豊富だ。

 夕食の後、湯を使って2人して浴衣など着て、向かい合って座る。
 部屋の4隅には蝋燭を立て、水盤の変わりに水を張ったボウル。
 香炉どころか線香もないので、灰皿とマッチを代用品にそろえた。

 そしてあまり血生臭くなく、静かで精神的にクるものを見繕って話してやる。
 
「……オレが子供の頃、聞いた話なんですけどね。アカデミーの帰り道に、細い路地に沿った水路に掛かった小さな橋があるんです。その橋は、子供たちの間で『なぜなぜ橋』って呼ばれてたんです」

 神妙な面持ちで聞かれると、イルカとしても語り甲斐がある。

 子供たちの反応は可愛らしいが、関係のないところで先走った悲鳴などあげられると、逆にこちらが怖い。

 気を良くして、イルカは更に夜半までかけて、たっぷりと雰囲気の良い話をしてやった。

 そして、夜は更けた。



   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「……イルカせんせ~」

 鼻を鳴らし、顔をぐしゃぐしゃにして泣きついてくる男。
 あんな話ばっかされちゃ恐くて1人じゃ眠れませんとか言って、このクソ熱い中ぴったりと抱きついてくる。

───くそぅっ……いつもと変わんねえじゃねえかっ



 【了】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/08/05
UP DATE:2005/08/31(PC)
   2009/07/23(mobile)
RE UP DATE:2024/08/05
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