この夏の予定

【ワーカホリック 2】
   ~ 夏休み 05 ~
[この夏の予定]



───……ヤバイな……

 背後に展開する敵の気配を数え、イルカは足を緩めた。

 逃げることは得策だが、そのことばかりに気をとられてはいられない。

 全力で逃げている時は襲撃への注意が僅かに殺がれる。
 その僅かな違いが、命取りだということは、とっくに身に染みていた。

 襲撃を迎え撃ちつつ、逃げる算段を立てる。
 そしてそれが実行できなければ、自分はここで終わる。

───……こっちが1人だとは、まだ気付かれてねえみてえだな……

 初めて通るとはいえ、ここは森の中である。
 木ノ葉隠れの忍にとっては最も有利な地形条件。

 そして、罠を仕掛ける時間と距離は充分にあった。

───……追跡に待ち伏せはつきもんだよな、やっぱ

 ここまで、時間をロスすることを承知で、迂回を繰り返している。

 逃げる途中に仕掛けてきた罠には、真っ直ぐ追ってくる奴らはまだ引っかかっていない。
 
 緩めていた足を一瞬止め、大きく後へ跳んだ。そのまま敵へ向かって走る。

 とにかく気配を抑え、接触まで絶対に向こうに気付かれてはいけない。

───……見えたっ

 先頭は3人。
 後続に4人。
 それぞれの隊に上忍がついている。

 相手が枝を蹴るタイミングを見計らい、両手に6本のクナイを構えて速度を上げた。

 互いのスピードを利用して先頭の3人へクナイを打ち込む。

「……木ノ葉かっ!」

 気付かれるのと同時に、後続を牽制するように2本を投げつける。

 背後で崩れ落ちる3人には目もくれず、イルカは右へ回った。

───……流石に、しとめ切れなかったかっ

 2人は動きを止めたが、上忍らしき男はまだ息がある。

 追いつかれはしないだろうが、術を使われるか増援を呼ばれると厄介だ。

 後続へ投げたと見せかけたクナイがトラップを発動させる。
 同時に、残った上忍がぎりぎりかわせる位置へ最後の1本を投げた。

「囲めっ!」

 二手に分かれて挟み込もうと動く敵。その真中へイルカは飛び込んでいく。

 三方からの爆風を避けるように。

 最初に深手を負わされていた上忍は裂けきれずに地に落ちた。
 
「なっ!」

「散れっ! 潜んでいる奴らも探し出せっ」

 慌てて散っていく2人。
 イルカは残った2人を誘うように下がる。

───……5、4、3、2、1……

 イルカが足場にした同じ岩へ1人が足をかけた。
 瞬間、ぼこりと地面が陥没して2人を生き埋めにする。

 そのまま、イルカはこの場を離れていく。
 彼らの生死を確認する必要はなかった。

 とにかく足止めができればいい。
 残った者が増援を得て、追尾を再開するころには里に入れる。

 だが、追って来る気配が1つ。

───……早いな……

「イルカ先生っ」

 元教え子のように飛びついてきたのは、木ノ葉隠れの里が誇る上忍、はたけカカシだった。

 子供のようにすがり付いてくる彼を、イルカもしっかりと抱きとめてやる。

「カカシさん、早かったですね」

「イルカ先生が色々、仕込んでおいてくれたんでラクラクでした~」

 抱きついて首筋に顔を埋めてくるカカシから漂う血臭に、もはや追跡される心配はないと確信できた。
 
 この所、分不相応な任務にでると、こうして途中からカカシが合流することが増えている。

 5代目の粋な計らいと思いたいところだが、多分、たんにうまく使われているだけだ。

 カカシもイルカも。

 そうだとしても、こうして2人の時間が持てることは、純粋に嬉しい。

「ありがとうございます、カカシさん」

 さ、戻りましょうか。
 離れようとすると、強く抱きこまれる。

 あ~、そうそう。
 久々の逢瀬を惜しむように、会話が続いた。

「綱手様、また手違いとか言ってましたよ~」

「そうですか。それじゃあ今度こそ、2人揃ってお休み頂かないといけませんね」



 【了】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/07/17
UP DATE:2005/07/30(PC)
   2009/07/11(mobile)
RE UP DATE:2024/08/02
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