この夏の予定

【おにのみちゆき】
   ~ 夏休み 05 ~
[この夏の予定]



「……んー……」

 白濁した湯に浸かり、イルカは全身の力を抜く。

 任務の帰り、こうして隠し湯を使うのは久しぶりだ。

 灯りは湯の辺に建った常夜灯のみ。

 見上げた先には遮るもののない夜空が広がっている。
 鈴なりの星が降ってくる錯覚に、目を閉じた。

 人気のない山奥の、木ノ葉隠れの忍しか知らぬ隠し湯は、ここを訪れる者が慣れぬ手で少しずつ整備してきたのだろう。

 背に当たる積み上げられた岩の感触はざらついていて、痛みすら覚える。

 そう感じるのは、背に負った古い傷のせいかもしれないが。

「ふぅ……」

 近付く気配を察し、湯から上げた右手で汗を拭うように頭に乗せた手ぬぐいを取った。

 例え手ぬぐい1枚でも、人を殺める術を知っている。

 ここには木ノ葉の者以外は入れないが、絶対ということはない。
 
 こちらの探るような気配をあちらも察したらしく、わざとらしい声があがった。

「あっれー」

「こんばんは、カカシさん」

 見慣れた男が、素顔も裸体もさらして近付いてくる。

 手を上げて見せるのは、何の武器もないという意思表示だろう。

「イルカ先生もお仕事帰りデースカ?」

「ええ」

 掛け湯をし、カカシはイルカのすぐ隣りに身を沈める。

「じゃ、イルカせんせいーも、お休みだー」

 嬉しそうに微笑むその顔。

 イルカにとってはそれこそが最も危険なのだけれど。



 【了】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/07/16
UP DATE:2005/07/30(PC)
   2009/07/11(mobile)
RE UP DATE:2024/08/02
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