星に願いを
【カササギ橋】
〜 七夕 05 〜
[星に願いを]
ちょうど屋敷の門を入ろうとしたヒナタは、足元に次々と浮き出す丸い跡に足を止めた。
「雨……」
「降ってきてしまいましたね」
声を掛けられるのと同時に、親しい人の気配に振り返る。
「お帰りなさい、ネジ兄さん」
「はい」
ヒナタの迎える言葉に、ネジは微笑む。
実は、ただいま戻りましたとも言えず、出迎えへの感謝も口に出せず、ただそれだけ示しただけだ。
けれどヒナタはそれが分かっていて、嬉しそうに微笑み返す。
「お疲れ様でした。でも折角、間に合ったのに……」
少し残念そうに天を仰ぐ2人の元へ、屋敷の中からヒナタの妹──ハナビが駆け出してきた。
「お帰りなさいっ! 姉様、ネジ兄様っ」
「ただいま、ハナビ」
「ハナビさま、お久しぶりです」
2人の腕にしがみつこうとして、足元に広がる無数の黒い跡に気付いたのだろう。
天を仰ぐや、恨めしそうな声を漏らす。
「雨ぇ……」
どれほど今日を楽しみにしていたのかが伺えるその声に、年かさの2人は顔を見合わせて苦笑する。
「大丈夫よ、ハナビ」
「皆も、今夜は待ち焦がれていましたからね」
「でもっ……」
更に言い募ろうとしたハナビを制して、ヒナタは微笑んだ。
そして、首を傾げるネジにはできるだけ聞こえないような声でこっそりと諭す。
「雨が降って天の川が溢れても、カササギが橋を渡してくれるのよ」
まだ彼女がアカデミー生だったころ、妹と同じ心配をする自分へある教師が教えてくれた話だった。
「さ、濡れてしまうわ」
ハナビとネジを促してヒナタは屋敷へ入ろうとする。
彼女の後ろに従いながら、小さくネジが囁いた。
「味方は、どこにでもいるものなんですね……」
その言葉の意味をヒナタが本当に知るのは、随分先の話なのだけれど。
【了】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/07/03
UP DATE:2005/07/09(PC)
2009/06/30(mobile)
RE UP DATE:2024/08/02
〜 七夕 05 〜
[星に願いを]
ちょうど屋敷の門を入ろうとしたヒナタは、足元に次々と浮き出す丸い跡に足を止めた。
「雨……」
「降ってきてしまいましたね」
声を掛けられるのと同時に、親しい人の気配に振り返る。
「お帰りなさい、ネジ兄さん」
「はい」
ヒナタの迎える言葉に、ネジは微笑む。
実は、ただいま戻りましたとも言えず、出迎えへの感謝も口に出せず、ただそれだけ示しただけだ。
けれどヒナタはそれが分かっていて、嬉しそうに微笑み返す。
「お疲れ様でした。でも折角、間に合ったのに……」
少し残念そうに天を仰ぐ2人の元へ、屋敷の中からヒナタの妹──ハナビが駆け出してきた。
「お帰りなさいっ! 姉様、ネジ兄様っ」
「ただいま、ハナビ」
「ハナビさま、お久しぶりです」
2人の腕にしがみつこうとして、足元に広がる無数の黒い跡に気付いたのだろう。
天を仰ぐや、恨めしそうな声を漏らす。
「雨ぇ……」
どれほど今日を楽しみにしていたのかが伺えるその声に、年かさの2人は顔を見合わせて苦笑する。
「大丈夫よ、ハナビ」
「皆も、今夜は待ち焦がれていましたからね」
「でもっ……」
更に言い募ろうとしたハナビを制して、ヒナタは微笑んだ。
そして、首を傾げるネジにはできるだけ聞こえないような声でこっそりと諭す。
「雨が降って天の川が溢れても、カササギが橋を渡してくれるのよ」
まだ彼女がアカデミー生だったころ、妹と同じ心配をする自分へある教師が教えてくれた話だった。
「さ、濡れてしまうわ」
ハナビとネジを促してヒナタは屋敷へ入ろうとする。
彼女の後ろに従いながら、小さくネジが囁いた。
「味方は、どこにでもいるものなんですね……」
その言葉の意味をヒナタが本当に知るのは、随分先の話なのだけれど。
【了】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/07/03
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