季節のカカイル

【雷が鳴る前に】
[夏のおはなし]



 夕暮れの街を2人連れ立って歩いていく。

 行き先は商店街を回って、どちらかの家へ。

 今日は、どうしようかとイルカは八百屋の店先を覗く。


「イルカ先生」


 少し遠くからカカシの声。

 見れば酒屋の店先で、何かを指し示している。

 軽く八百屋の女主人に頭を下げて、酒屋へ足を向けた。

 カカシは既に店主へ支払いをしている。


「カカシさん」


 名を呼べば、受け取った酒を下げて店を出てくる。


「イルカせんせ、もうすぐ降ってきますよ」


「そんな気配ですね」


「帰りましょうか」


 雷の鳴る前に。



 【了】
‡蛙女屋蛙娘。@iscreamman‡
WRITE:2005/07/08
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【かみさまのおなり】
[夏のおはなし]



 さっきまで晴れわたっていた夏空は、もう暗雲に覆い尽くされている。

 遠くから雷鳴が響いて、それは急速に近付いていた。

 視界の端に閃く雷光と、轟いてくる雷鳴の間隔は測らなくとも狭まっている。


「急ぎまショ」


 差し出した手が、躊躇なく包まれる。

 その暖かさに浸っていると、ぐいと引かれた。


「急ぐんでしょう?」


 悪戯っぽく笑って前を走るは、楽しそうに髪を揺らしている。


───雷は神成り、神様のいらっしゃる音って言われてるんだよ


 ふいに、思い出したのは、誰が言った言葉だったろうか。

 こんな人を、神様に見せてはいけない。

 きっと、連れて行かれてしまう。

 握った手を強くし、足を速めた。



 【了】
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【星が掴める距離】
[夏のおはなし]



 見上げた空には星が瞬いている。

 なんとなく手が届きそうで、だるい腕を上げてみた。

 けれど、窓ガラスに触れることもできない。

 もちろん、星になど届きはしない。

 力を失って落ちる腕が、自身の思いのほかの落胆を示しているようだ。


「どうしました?」


 傍らの声は眠たげ。

 起こしてしまったという申し訳なさに、落ちかけた腕で触れた。


「いえ、星が掴めそうだったんで……」


「へえ」


 寝ぼけた声は酷く嬉しそうに響く。


「オレは星を抱いてる夢を見てましたよ」



 【了】
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【にじいろ】
[夏のおはなし]



「イルカせんせー」


 窓の外を見上げて指し示す先、残照に複雑な色味となった空に、夕立の虹が掛かっていた。


「あれって何色?」


 空は赤く暗く、青く褪め、紫立って斑になっている。

 そんな背景に掛かる虹は両端の色が霞んで見えた。


「なんか、微妙な色合いですよね」


 丹、紅、赤、茜、朱。

 知っている限りの色を口にしては指を折っていく。

 橙、黄、山吹、浅黄、萌黄、緑、常盤。

 7色と言われる虹。

 地方によっては3色、5色とも言われている。

 けれど、それは何百という色が重なってそう見えているだけだ。

 あれは光が分解されたものなのだから。

 はなだ、青、瑠璃、藍、紺、紫。

 まだ指を折っている姿が微笑ましくて、背を抱いてやる。


「あれは虹色ですよ」



 【了】
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【夕日に向かって】
[夏のおはなし]



「夕日に向かって走ったこと、あるんですか?」

 ふとした会話から、妙な方向へ流れていた。

 最初は、この夏は海にでも行きたいと言ったんだとおもう。

 それで気恥ずかしさを誤魔化すように、海辺でも走りますかと返ってきた。


「青春ですね」


「やめてくださいっ。濃ゆいモン、思い出しますからっ」


 なんて、どんどん色気のない会話になってったんだ。


「ガイ先生なら、夕日に向かって走っても、追いつきそうですよね」


「はあ」


 気のない返事をしてしまうのは仕方がない。

 でも、ガイなら、というところが気になった。


「夕日に向かって走ったこと、あるんですか?」


「ええ……子供の頃に」


 小さな子供が夕日に向かって走る。

 まるで、夜から逃げるように。

 そんな光景が見えた気がして胸が痛んだ。

 淋しい顔が見たくなくってきつく抱きしめる。



 【了】
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