季節のカカイル
【雷が鳴る前に】
[夏のおはなし]
夕暮れの街を2人連れ立って歩いていく。
行き先は商店街を回って、どちらかの家へ。
今日は、どうしようかとイルカは八百屋の店先を覗く。
「イルカ先生」
少し遠くからカカシの声。
見れば酒屋の店先で、何かを指し示している。
軽く八百屋の女主人に頭を下げて、酒屋へ足を向けた。
カカシは既に店主へ支払いをしている。
「カカシさん」
名を呼べば、受け取った酒を下げて店を出てくる。
「イルカせんせ、もうすぐ降ってきますよ」
「そんな気配ですね」
「帰りましょうか」
雷の鳴る前に。
【了】
‡蛙女屋蛙娘。@iscreamman‡
WRITE:2005/07/08
UP DATE:2005/07/14(PC)
2009/01/27(mobile)
RE UP DATE:2024/08/01
【かみさまのおなり】
[夏のおはなし]
さっきまで晴れわたっていた夏空は、もう暗雲に覆い尽くされている。
遠くから雷鳴が響いて、それは急速に近付いていた。
視界の端に閃く雷光と、轟いてくる雷鳴の間隔は測らなくとも狭まっている。
「急ぎまショ」
差し出した手が、躊躇なく包まれる。
その暖かさに浸っていると、ぐいと引かれた。
「急ぐんでしょう?」
悪戯っぽく笑って前を走るは、楽しそうに髪を揺らしている。
───雷は神成り、神様のいらっしゃる音って言われてるんだよ
ふいに、思い出したのは、誰が言った言葉だったろうか。
こんな人を、神様に見せてはいけない。
きっと、連れて行かれてしまう。
握った手を強くし、足を速めた。
【了】
‡蛙女屋蛙娘。@iscreamman‡
WRITE:2005/07/08
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2009/01/27(mobile)
RE UP DATE:2024/08/01
【星が掴める距離】
[夏のおはなし]
見上げた空には星が瞬いている。
なんとなく手が届きそうで、だるい腕を上げてみた。
けれど、窓ガラスに触れることもできない。
もちろん、星になど届きはしない。
力を失って落ちる腕が、自身の思いのほかの落胆を示しているようだ。
「どうしました?」
傍らの声は眠たげ。
起こしてしまったという申し訳なさに、落ちかけた腕で触れた。
「いえ、星が掴めそうだったんで……」
「へえ」
寝ぼけた声は酷く嬉しそうに響く。
「オレは星を抱いてる夢を見てましたよ」
【了】
‡蛙女屋蛙娘。@iscreamman‡
WRITE:2005/07/08
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【にじいろ】
[夏のおはなし]
「イルカせんせー」
窓の外を見上げて指し示す先、残照に複雑な色味となった空に、夕立の虹が掛かっていた。
「あれって何色?」
空は赤く暗く、青く褪め、紫立って斑になっている。
そんな背景に掛かる虹は両端の色が霞んで見えた。
「なんか、微妙な色合いですよね」
丹、紅、赤、茜、朱。
知っている限りの色を口にしては指を折っていく。
橙、黄、山吹、浅黄、萌黄、緑、常盤。
7色と言われる虹。
地方によっては3色、5色とも言われている。
けれど、それは何百という色が重なってそう見えているだけだ。
あれは光が分解されたものなのだから。
はなだ、青、瑠璃、藍、紺、紫。
まだ指を折っている姿が微笑ましくて、背を抱いてやる。
「あれは虹色ですよ」
【了】
‡蛙女屋蛙娘。@iscreamman‡
WRITE:2005/07/08
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【夕日に向かって】
[夏のおはなし]
「夕日に向かって走ったこと、あるんですか?」
ふとした会話から、妙な方向へ流れていた。
最初は、この夏は海にでも行きたいと言ったんだとおもう。
それで気恥ずかしさを誤魔化すように、海辺でも走りますかと返ってきた。
「青春ですね」
「やめてくださいっ。濃ゆいモン、思い出しますからっ」
なんて、どんどん色気のない会話になってったんだ。
「ガイ先生なら、夕日に向かって走っても、追いつきそうですよね」
「はあ」
気のない返事をしてしまうのは仕方がない。
でも、ガイなら、というところが気になった。
「夕日に向かって走ったこと、あるんですか?」
「ええ……子供の頃に」
小さな子供が夕日に向かって走る。
まるで、夜から逃げるように。
そんな光景が見えた気がして胸が痛んだ。
淋しい顔が見たくなくってきつく抱きしめる。
【了】
‡蛙女屋蛙娘。@iscreamman‡
WRITE:2005/07/08
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[夏のおはなし]
夕暮れの街を2人連れ立って歩いていく。
行き先は商店街を回って、どちらかの家へ。
今日は、どうしようかとイルカは八百屋の店先を覗く。
「イルカ先生」
少し遠くからカカシの声。
見れば酒屋の店先で、何かを指し示している。
軽く八百屋の女主人に頭を下げて、酒屋へ足を向けた。
カカシは既に店主へ支払いをしている。
「カカシさん」
名を呼べば、受け取った酒を下げて店を出てくる。
「イルカせんせ、もうすぐ降ってきますよ」
「そんな気配ですね」
「帰りましょうか」
雷の鳴る前に。
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【かみさまのおなり】
[夏のおはなし]
さっきまで晴れわたっていた夏空は、もう暗雲に覆い尽くされている。
遠くから雷鳴が響いて、それは急速に近付いていた。
視界の端に閃く雷光と、轟いてくる雷鳴の間隔は測らなくとも狭まっている。
「急ぎまショ」
差し出した手が、躊躇なく包まれる。
その暖かさに浸っていると、ぐいと引かれた。
「急ぐんでしょう?」
悪戯っぽく笑って前を走るは、楽しそうに髪を揺らしている。
───雷は神成り、神様のいらっしゃる音って言われてるんだよ
ふいに、思い出したのは、誰が言った言葉だったろうか。
こんな人を、神様に見せてはいけない。
きっと、連れて行かれてしまう。
握った手を強くし、足を速めた。
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【星が掴める距離】
[夏のおはなし]
見上げた空には星が瞬いている。
なんとなく手が届きそうで、だるい腕を上げてみた。
けれど、窓ガラスに触れることもできない。
もちろん、星になど届きはしない。
力を失って落ちる腕が、自身の思いのほかの落胆を示しているようだ。
「どうしました?」
傍らの声は眠たげ。
起こしてしまったという申し訳なさに、落ちかけた腕で触れた。
「いえ、星が掴めそうだったんで……」
「へえ」
寝ぼけた声は酷く嬉しそうに響く。
「オレは星を抱いてる夢を見てましたよ」
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【にじいろ】
[夏のおはなし]
「イルカせんせー」
窓の外を見上げて指し示す先、残照に複雑な色味となった空に、夕立の虹が掛かっていた。
「あれって何色?」
空は赤く暗く、青く褪め、紫立って斑になっている。
そんな背景に掛かる虹は両端の色が霞んで見えた。
「なんか、微妙な色合いですよね」
丹、紅、赤、茜、朱。
知っている限りの色を口にしては指を折っていく。
橙、黄、山吹、浅黄、萌黄、緑、常盤。
7色と言われる虹。
地方によっては3色、5色とも言われている。
けれど、それは何百という色が重なってそう見えているだけだ。
あれは光が分解されたものなのだから。
はなだ、青、瑠璃、藍、紺、紫。
まだ指を折っている姿が微笑ましくて、背を抱いてやる。
「あれは虹色ですよ」
【了】
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【夕日に向かって】
[夏のおはなし]
「夕日に向かって走ったこと、あるんですか?」
ふとした会話から、妙な方向へ流れていた。
最初は、この夏は海にでも行きたいと言ったんだとおもう。
それで気恥ずかしさを誤魔化すように、海辺でも走りますかと返ってきた。
「青春ですね」
「やめてくださいっ。濃ゆいモン、思い出しますからっ」
なんて、どんどん色気のない会話になってったんだ。
「ガイ先生なら、夕日に向かって走っても、追いつきそうですよね」
「はあ」
気のない返事をしてしまうのは仕方がない。
でも、ガイなら、というところが気になった。
「夕日に向かって走ったこと、あるんですか?」
「ええ……子供の頃に」
小さな子供が夕日に向かって走る。
まるで、夜から逃げるように。
そんな光景が見えた気がして胸が痛んだ。
淋しい顔が見たくなくってきつく抱きしめる。
【了】
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