星に願いを

【天の柄杓の底を抜け】
   〜 七夕 05 〜
[星に願いを]



 建物を出たところで、子供たちは門の脇を見上げていく。

 飾られた笹に色紙で作られた網飾りや短冊に混じって、折り紙の手裏剣まで下がっているのは、ここが忍者アカデミーだからだ。

 よく見れば、短冊に書かれている願い事も元々の行事とはかけ離れたものが多い。

 まあ昨今は伝承の誤解から、子供といえども恋愛がらみの願い事をするのだろう。

 日の傾きかけた中、少し涼しい風に揺れる笹や短冊。

 願った未来がくることを疑っていない笑みを浮かべる子供たち。

 今夜は家族ともう一度笹を飾りつけて夜空を見上げるのだろう。

 けれど傍らを少年が1人、顔を俯けたまま駆け抜けていった。

 そして、もう1人。

 彼らには、夜を過ごす家族はない。多少なりとも血の繋がりのある者さえ。

 だからこうした行事のある夜は、近隣から響く楽しげな声を聞きながら1人過ごすのだ。
 
 それぞれ別方向に駆け去っていく子供の背に、全てを見ていた教師は呟く。

「いっそ、天の柄杓の底を抜け」

 かつて、自身も聞かされた言葉を。



 【了】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/07/03
UP DATE:2005/07/09(PC)
   2009//06/30(mobile)
RE UP DATE:2024/08/02
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