星に願いを

【いとはり】
   〜 七夕 05 〜
[星に願いを]



 父親に連れられてやってきた呉服店でサクラを出迎えたのは販売員ではなく、聞きなれた声だった。

「サクラ」

「……いの」

 互いに顔を見合わせ、知らず大きく息を吐く。

 2人とも言葉を失ったのは、それぞれの置かれた状況というものが分かりすぎるほどに察することができたからだ。

 夏を前に、娘に新しい浴衣を仕立ててやろうという親心に引きずられてきたサクラ。

 あれもこれもと反物を押し当てられ、布の山に埋もれかけていた、いの。

 そして、またしても娘をダシに張り合う───というか、交流を深めている父親たち。

 聡明な2人には、この後の展開が見えるようだった。

 けれど、それをわざわざ想像したり、ましてや先手を打って阻止しようとして火に油を注いだりはできない。

 ただ視線を交し合って、互いを慰める言葉を呟くだけ。

「「……大変よね」」

 お互い。
 【了】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/07/01
UP DATE:2005/07/09(PC)
   2009/06/30(mobile)
RE UP DATE:2024/08/02
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