星に願いを

【1億光年の2人】
   〜 七夕 05 〜
[星に願いを]



「イルカ先生」

 足音も気配も前触れもなく、突如として任務受付所へ降り立った上忍は報告書に判子をつく1人の中忍の手をとった。

「どうしました、カカシさん」

 いつの間に判子を置いたのか、中忍も応えるように両手でその上忍の手を包み込んでいる。

 任務に疲れて戻ったばかりの忍や、さっさと書類を提出して帰りたい者を無視し、2人の世界が広がっていった。

「ごめんなさい。任務、入っちゃいました……」

「そうですか」

 残念そうな音を声に含ませながらも、静かに微笑んで彼は訊ねる。

「わざわざ言いに来るってことは、間に合わないってことなんですね」

「はい」

 俯いて、叱られる子供のようにおどおどとカカシは言う。

「……行きたく、ないです……」

「カカシさん」

 たしなめるようなイルカの声に、だってと頼りないカカシの呟きが混じった。
 
「だって、去年はまだお付き合いもしてなかったから、今年が初めての七夕なんですよっ」

 周囲は、一発殴っとけと心の奥底で叫ぶ。

 が、それでもイルカは優しく諭す。

「そう思ってくれるのは嬉しいですし、オレもカカシさんと居たいと思ってます」

「……ホントに?」

「ええ、当然でしょう。信じられませんか?」

「いいえっ」

 そこでご褒美とばかりに初めてイルカからカカシを軽く抱きしめた。

「ちゃんと任務を果たして、戻ってきてくれますね」

「はいっ」

「いってらっしゃい。カカシさん、どうかご無事で」

 心配げに、けれど笑顔でそう言ってやれば、渋々ながらもカカシは抱きしめていた腕を緩め、背を向ける。
 そして半ば逃げ出すように駆け去った。

「すっ、すぐに帰ってきますから、待っててくださいねっ! イルカせんせーっ!」

 振り返り振り返り駆けていく背が見えなくなるまで手を振ってやっておきながら、イルカは表情を変えずに呟く。

「次に会うのが1年後ってことには、なんないですかねえ」

 働き者の中忍の暗い言葉に、まんまと踊らされた里長は一言返すだけだった。
 
「……考えておく」



 【了】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/07/05
UP DATE:2005/07/09(PC)
   2009/06/30(mobile)
RE UP DATE:2024/08/02
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