若葉繁れる

【初節句】
   ~ こどもの日 05 ~
[若葉繁れる]



 毎年4月の半ばに、木ノ葉隠れの里に1つの知らせが回る。

 それから数日のうちに、人々はアカデミーへあるモノを預けるのだ。

 それは、この時期に飾られるはずの──けれど、様々な事情で飾られなくなったモノ。

 そして5月を目前にした日に、新人下忍たちもアカデミーへ集められたのである。

 カカシ率いる7班、紅の8班、そしてアスマの10班。

 彼らを、イルカら数人の中忍教師が十数人のアカデミー生とともに出迎える。

「えー、本日の任務はアカデミーからの依頼です。皆さん、よろしくお願いします」

「よろしくお願いしまーすっ!」

 イルカに倣って、まだ額宛もしていない子供たちが一斉に頭をさげた。

 その姿に、過去の自分を見たのか、下忍たちは苦笑に近い複雑な表情を見せる。

「ほーら。お前らも挨拶しなさいよー」

 やたらと上機嫌な上忍師の1人に促され、ようやく彼らも頭を下げる。

 挨拶の言葉が全く揃っていないのは、下忍たちの個性だ。
 
 と、思いたい。

「さーてと。今日はイルカ先生が仕切ってくれるそーだから、お前らちゃーんと言うコト聞けよ」

 そう釘を刺されるまでもなく、出会って日の浅い上忍師らよりも、イルカ先生のほうによっぽど馴染み深いのだ。

 今年の下忍たちは皆、アカデミーでイルカ先生の世話になっており、誰もが懐いている。

 もちろん怒れば酷く恐いことも、容赦のないゲンコツが痛いことも身に染みていた。

 それに、アカデミーを卒業したばかりとはいえ、彼らはもう忍だ。

 かつての恩師や後輩の手前、無様な姿は意地でも見せられない。

 まあ、中には張り切りすぎて空回るどころか、周囲を巻き込んで大失態をやらかすドタバタ忍者もいるのだけれど。

 とにかく、下忍たちはいっちょ前の顔をして、イルカの前に並んでいる。

 そんな彼らの緊張と誇らしさの滲む顔を見渡して、イルカもまじめくさって任務内容を告げた。

「皆さんには、アカデミー屋上にこれらを設置するお手伝いをお願いします」

 そう言って示すのは、数十個のダンボール箱。

 中身は里中から集められた、様々な事情でもう飾られなくなったこいのぼりだ。
 
 今年からアカデミーへ集めて一斉に飾ることにしたのは、里を一つの家族のように見ている3代目のアイデアだという。

 そうすれば、しまわれっぱなしのものの虫干しにもなるし、自宅に飾ってもらえない子供たちにもこの行事へ馴染ませてやれる、と。

 親のいない子も、子をなくした親も、この里には多いのだ。

 担当上忍師の指示の元、初めて触れる者や、久しぶりに揚げる者がいる。

 そんな彼らに、かつての自身を見るように、イルカは目を細めた。



 【了】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/04/28
UP DATE:2005/05/09(PC)
   2009/04/28(mobile)
RE UP DATE:2024/08/02
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