キャンディード

【キミとボクの間に】
[キャンディード]



 ナルトは悩んでいた。

 コトの発端は1ヶ月前のバレンタインデー。

 サイからチョコレートを渡されて、うっかり受け取ってしまった。

 以来、ナルトは悩んでいる。
 ものすごく。

 だって、相手はサイなのだ。

 何を考えての行動なのか、全く持って想像外で予想もつかない。

 かつては意外性No.1ルーキーと謳われたナルトをして、暗部やら根やらと言う組織では『一般常識』なるものは求められないのだろうか、などと思ってしまう。

 サイにバレンタインなんて面倒な事を吹き込んでくれたサクラが、きちんと「片思いの女性が意中の男性にチョコレートを渡して告白する」のが火の国に伝わっている一般的な風習だとだけ教えておいてくれればよかったのだ。

 それなのに、ご丁寧に応用系の『義理チョコ』やら、発展系の『友チョコ』まで一気に詰め込むから訳が分からなくなる。
 未知の(一般的な)知識にはやたらと素直なサイには、基礎だけで十分なのだ。
 
 それにしても問題は、うっかり受け取ってしまったサイからのチョコレート。
 そのお返しである。

 まず、サイは『ボクの気持ち』と言っていたが、それがどっち方向へ向いているのかはうやむやにされた。
 友情か、義理か、本命か。
 それが分からなくてこの1ヶ月、悩みに悩んだ。

 そしてホワイトデーが目前に迫り、もう一つの問題に気づいた。
 気づいてしまった。

 何をお返しに選ぶべきか。

 気持ちとして貰ってしまった以上、何らかの返事をしなければならない。

 それとなーく、サクラにホワイトデーの傾向と対策についてお伺いを立て、みっちりとご高説を賜った。
 その結果、ワケが分からなくなった。

 曰わく、当初はマシュマロやクッキー、キャンディと言った菓子類が定番だった。
 ところが、本命だの遊びだのお断りだのの意味が菓子につき、しかもその意味は地域や時代によって全く違ってくるらしい。

 それ以外にも、既にお付き合いがあるならアクセサリーやバッグでも可。
 ただし、下着は相当親しくない限り御法度だといらない情報まで頂いた。
 
 更には3倍返し、10倍返しという男から搾取するばかりの恐ろしいオプションまでついてくる始末。

 余りの情報量に知恵熱を出しかけたナルトを解放すべく、サクラは衝撃的な講義を締めくくる。

「ま、どんな物よりも本当に好きな人から、OK貰うのが一番よね」

 笑ってはいるが、声はやっぱり淋しげに聞こえた。
 仕方がない。
 サクラの本命チョコは、今年も渡せなかったのだから。

 そんなしんみりした会話の後では、さすがのナルトも言い出せなかった。

───結局、サイへのお返しって、何にしたらいいんだってばよーっ!?

 首を捻りながら帰っていくナルトの背を見ながら、サクラは思う。

───だから、なんだっていいのよっ!

 ナルトがサイの為に選んだ物なら、きっと喜ぶだろう。
 そして、どんな言い訳を並べたとしても、なんだかんだでサイは自分の思う通りの展開へ持ち込んでしまうはずだ。

 忍者としては、サイの方が数段上手なのだし。

 ナルトの気持ちは問題だが、そんなことは後からでいい。
 多分。
 


 【ショコラ ~ 僕らの境界 ~の後日談】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2010/03/14
UP DATE:2010/09/03(mobile)
RE UP DATE:2024/08/01
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