キャンディード

【Family Play】
[キャンディード]



 木ノ葉隠れの里一番の繁華街を連れ立って歩いていると、背後から聞きなれた声がした。

「サクラ?」

「いの」

 振り返りながらそう応えたサクラは、彼女にも連れがいると知っていつもの言い合いをかろうじてこらえる。

「久しぶりね。お父さんと買い物?」

「明日、ホワイトデーでしょ。バレンタインのお返しに、パパがデートに誘ってくれたのよ」

 これから買い物して、食事すんのよ。

 楽しげにいのが腕を絡めるのは、彼女に良く似た男性だった。

 ベストと額当てから上官なのだと察したサクラは、少し姿勢を正した挨拶をする。

「春野サクラです。いの……さんとは、アカデミーから仲良くさせていただいてます」

「やあ、君がサクラちゃんか。話はうちのいのちゃんから良く聞いているよ」

 そう言って微笑むいのの父は、上官というよりも、完全に父親の顔だった。
 
 多分、自分の父親とそう年も変わらないだろうに、現役の忍な上に元々の顔立ちもかなりいい。

 これくらいステキならパパとデートも全然OKなカンジ。

「アカデミーでの成績はうちのいのちゃんと競っていたって聞いているよ。優秀なんだねえ、サクラちゃんは」

「は、はあ……」

 でも、サクラは自分のこめかみがひくついていないかのほうが気になった。

 何故なら、言っていることのアクセントが全て『うちのいのちゃん』。

 短いやりとりでも、山中家の父親の基準は娘のいのちゃんなのだなと分かる。

 娘のほうも、(親の)世界の中心が自分だと信じて疑っていない。

 だからこーゆー傲岸不遜なワガママ娘ができたのだなと、サクラはちょっぴり悟った。

「ね、サクラ。アタシのことはパパに紹介してくれないの?」

 意識が半分抜けかけてぼうっとしていたサクラに、いのが促す。
 慌てて傍らで呆然としてた父の袖をひいた。

「あ、うん。父さん。あのね、山中いの、さん。アカデミーから一緒で、下忍の同期なの」

「初めまして、春野の父ですっ!」

 はっきりといのではなく、山中上忍へ向けられた父親の言葉に、サクラは額を押さえる。
 
「アカデミーではうちのサクラが、ずいぶんと娘さんのお世話になったみたいでっ!」

「いやいや。うちのいのちゃんは人のお世話ができるくらいの余裕があったみたいですから」

「いえ、お陰でうちのサクラも今じゃツナデ様に弟子入りする程に成長しましてっ!」

「そうですか! 流石、いのちゃんをライバル視してくれるだけあるなあ、春野さんはっ」

「ええ、下忍のくのいちじゃ、うちのサクラぐらいらしいですからねえ。山中さんを上回ってるのはっ」

 和やかに、爽やかな笑顔での歓談……否、親バカ2人の娘自慢は延々と続いていく。

 買い物はしばらくお預けかな、とサクラといのは目配せしあった。



 【ショコラ ~ 少女時間 サクラといの ~の後日談】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/03/07
UP DATE:2005/03/20(PC)
   2009/03/08(mobile)
RE UP DATE:2024/08/01
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