キャンディード

【アメとムチ】
[キャンディード]



 3月14日へ日付が変わったと同時に、可愛らしいラッピングのプレゼントを載せたカカシの両手がイルカの目の前に差し出された。

「イルカ先生~、バレンタインのお礼でーす」

 しばし、その包みと差し出してくるカカシを見比べ、ようやくイルカは思い至る。

「ああ」

 すっかり忘れていたが、先月14日にイルカはカカシへチョコレートを渡した。

 わざわざ用意したものでも、心を込めて贈ったのでもない。

 まだ残っている仕事の邪魔をされたくなくて、時間つぶしに自分がお茶請けにつまんでいたものを分けてやっただけのことだ。

「そんなこともありましたねえ」

 うすらとぼけて、そうでしたそうでしたと両手を打ち合わせる。

 実はその時、子供たちや同僚からの義理チョコに幼稚な嫉妬を剥き出しにしてくるカカシが可愛くて、イルカはちょっとしたイタズラもしかけたのだ。
 
 イルカがカカシに渡したチョコレートはカカオマス100%──ミルクも砂糖も入っていないもの、だった。

 チョコレート=甘いという先入観を持って口にしたら、酷く苦いと感じるだろう。

 特に忍びとして鍛えられて敏感な───けれど、ちょっぴり発達の遅れているっぽい、カカシの味覚には相当厳しかったらしい。

「たいしたものを差し上げていないのに、お礼なんて……気を使わせてしまって逆に悪かったですね」

 笑顔で返すものの、イルカはお返しを受け取ろうとはしない。

 あれから数日の間は何かにつけて拗ねるので、その度に口直しとして甘やかしていた。

 だが、やはりこれはお礼とは名ばかりの意趣返しではないかという考えが頭から離れない。

 穏やかな笑顔の裏で、受け取るべきか否か悩むイルカを知ってか知らずか、カカシも珍しく落ち着いた表情で話し出す。

「チョコはね、特別でなくってヨカッタんです。オレはイルカ先生の気持ちが欲しかっただけだから……」

 それにね、と少し甘い笑顔になって。

「イルカ先生、あれからオレのこといっぱい甘やかしてくれたデショ? それがね~、すっげえ嬉しかったんデース」
 
 カカシは辛抱堪らんといった勢いで、イルカを抱きしめる。

 その腕の強さに呆れながら、イルカは苦笑した。

 バレンタインのカカシとのやりとりを思い出して。

 あの時、イルカは言ったのだ。

───嫉妬をするのも、自分の気持ちを疑うのも自由

 けれどあれは、自身への言い訳だったのかもしれない。

 何かにかこつけて、カカシの気持ちを確かめるように、突き放したり甘やかしたりを繰り返してきた。

 カカシはいつも、うっとうしいくらいにイルカへの愛情を垂れ流してきていたのに。

 いや、それが余計に不安にさせるのだけれど…。

「だからねぇ、イルカ先生」

 自分の腕の中で、バツの悪さから黙り込んでしまったイルカへ頬を摺り寄せて、カカシはとびきり甘い声をかけてくる。

「オレにも少ぅし甘えてよ」
 


 【ショコラ ~ 甘い生活 ~の後日談でした】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/03/07
UP DATE:2005/03/20(PC)
   2009/03/08(mobile)
RE UP DATE:2024/08/01
2/6ページ
スキ