消失点

【炎の時来たれり】
   ~ 始まらなかった物語 ~
[水準点 ~ Bench Mark]



 暗い、闇の底に赤く揺らめく炎が灯る。

 炎は巨大な獣の禍々しい姿を形作り、その腕には身を丸めて眠る子供の小さな身体を守るように抱え込んでいた。

 その獣───九尾の妖狐が不意に顔を上げ、虚空を睨みながら忌々しげに口許を歪める。

《……漸く、悟ったか。馬鹿な男だ……》

 唯一、この世界の綻びに気付いた勘の良さは称賛に値したが、結局は最後まで己を通し切れずに術に屈してしまったのはいただけない。

 あれだけヒントを出してやったのに、割合気に入っていた元の世界を取り戻す折角の機会を不意にしてくれたのだ。
 見捨てた振りで、多少の嫌がらせは許されるというもの。

 だが、これ以上は術の解除に支障をきたしかねないし、そろそろ傍観も飽きた。
 
《……ふふんっ。まさか、このワシが世界を救う為に動こうとはなあ……》

 それも己だけの為ではなく、自らを封じ込む小さな子供が理由という事に自嘲さえ漏れる。

 けれど気分は高揚し、爽快感すら覚えていた。

《……さあ、行くぞ。ナルト……》

 意識もなく身を丸めた子供を胸元に抱えたまま、獣は跳躍に備えて四肢を屈める。

《お前を取り戻す戦いだ!》



 【了】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2014/12/19
UP DATE:2014/12/20(mobile)
RE UP DATE:2024/08/15



   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



*この『始まらなかった物語』はWEB拍手でエピローグ公開中にワンチャン希望の反応があれば『再開の物語』として公開され、九尾視点でのナルト(おまけでイルカ先生)奪還作戦として再展開する予定だったものです。
 残念ながら皆さんあのエピローグを受け入れてしまったのでお蔵入りとなりましたが、このお話しが完全に終了した証として公開しておきます。

‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
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