キャンディード
【BLACK OR WHITE?】
[キャンディード]
少し早めに夕食の買い物を済ませて、イルカは馴染みの菓子屋へ頼んでいたものを受け取りに寄る。
行事の知識はあるくせに関心の薄いイルカは、バレンタインデーだってチョコレートを渡されて思い出すくらいだった。
しかし、その律儀さから、お返しの日であるホワイトデーだけは忘れずにいる。
特に教師になってからは生徒や同僚から貰う数も多く、毎年同じ物を受け取ったチョコレートのお返しとしていた。
義理も本命もなく、ただの贈答品として。
まあ、今のイルカには恋人と呼べる人がいたから、明らかに本命と分かるものは受け取っていなかった。
だから例年に比べてもかなり数は減っている。
それでも、随分な数になる。
イルカにとっては痛い出費だし、恋人のご機嫌取りもしなければならない。
日頃の感謝や義理ばかりのチョコレートたちに、イルカの恋人は可愛げのない嫉妬丸出しだったのだ。
思い出すと、ため息が積み重なっていく。
両手一杯の荷物を抱えなおし、深呼吸をして、イルカは自宅の扉を開けた。
「おかえりなさい、イルカ先生」
「いらっしゃい、カカシさん」
合鍵も渡していないのに堂々と不法侵入を果たしている里が誇る上忍は、イルカの荷物を不満げに見下ろす。
それに構わず、狭い台所へ買ってきた物を運び入れ、生物を冷蔵庫へしまう。
無言で自分の背後に立って奇妙な圧力を発しつづける男に、イルカは菓子屋の袋から一つを取り出して差し出した。
「コレ、バレンタインデイに頂いたチョコレートのお礼です。一日早いですけど……、ありがとうございました」
けれど、睨むばかりでカカシは受け取ろうとはしない。
「カカシさん? やっぱり、甘い物はいりませんか?」
「オレも他の人と一緒なの? イルカ先生にとっては……」
そう言って顔を上げたカカシは、泣きだしそうな表情をしていた。
なんとなく、その反応を予想していたイルカははっきりと告げる。
「頂いた物には、同等の物を返すのがオレの流儀です」
まあ、一つ一つ頂いた物の価値を把握してるわけじゃないんで、平均値ってことで同じ物をお返ししてるんですけどね。
どこか楽しそうに、イルカはカカシの頬を撫でる。
「だから気持ちは、カカシさんからしか受け取ってませんし、返すのもあなただけです」
「イルカ、先生……」
「コレは、確かに他の方と同じ価値の物でしかありません。けれど、託した気持ちは、カカシさんにだけ、ですよ」
我侭な子供を諭すような口調だったけれど、イルカの正直な気持ちなのだろう。
泣きだしそうだったカカシはますます目元を潤ませ、イルカに抱きついた。
「大好きデス、イルカせんせえっ!」
「オレも大好きですよ、カカシさん」
イルカからも抱き返し、このまま甘い時間が始まる……はずだった。
が、カカシは幸せそうな声で何気なく、ふいに気になっただろうことを聞いてくる。
「そーいや、4月14日にバレンタインデーにチョコもらえなかった男と、ホワイトデーにお返しもらえなかった女が坦々麺を食うって知ってます?」
「ああ、聞いたことならありますよ。確か、ブラックデイとか……」
「オレたちにはカンケーないですよね~」
などと含み笑いながら、カカシはイルカを抱きこんだ腕を強くする。
「ま、イルカ先生はオレと会うまでブラックデーどころか、バレンタインもホワイトデーも、ナルトと一楽デショ?」
そう言い終わると同時に、イルカの家から締め出されてしまっていた。
【ショコラ ~ 彼と彼氏の事情~の後日談】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/03/07
UP DATE:2005/03/20(PC)
2009/03/08(mobile)
RE UP DATE:2024/08/01
[キャンディード]
少し早めに夕食の買い物を済ませて、イルカは馴染みの菓子屋へ頼んでいたものを受け取りに寄る。
行事の知識はあるくせに関心の薄いイルカは、バレンタインデーだってチョコレートを渡されて思い出すくらいだった。
しかし、その律儀さから、お返しの日であるホワイトデーだけは忘れずにいる。
特に教師になってからは生徒や同僚から貰う数も多く、毎年同じ物を受け取ったチョコレートのお返しとしていた。
義理も本命もなく、ただの贈答品として。
まあ、今のイルカには恋人と呼べる人がいたから、明らかに本命と分かるものは受け取っていなかった。
だから例年に比べてもかなり数は減っている。
それでも、随分な数になる。
イルカにとっては痛い出費だし、恋人のご機嫌取りもしなければならない。
日頃の感謝や義理ばかりのチョコレートたちに、イルカの恋人は可愛げのない嫉妬丸出しだったのだ。
思い出すと、ため息が積み重なっていく。
両手一杯の荷物を抱えなおし、深呼吸をして、イルカは自宅の扉を開けた。
「おかえりなさい、イルカ先生」
「いらっしゃい、カカシさん」
合鍵も渡していないのに堂々と不法侵入を果たしている里が誇る上忍は、イルカの荷物を不満げに見下ろす。
それに構わず、狭い台所へ買ってきた物を運び入れ、生物を冷蔵庫へしまう。
無言で自分の背後に立って奇妙な圧力を発しつづける男に、イルカは菓子屋の袋から一つを取り出して差し出した。
「コレ、バレンタインデイに頂いたチョコレートのお礼です。一日早いですけど……、ありがとうございました」
けれど、睨むばかりでカカシは受け取ろうとはしない。
「カカシさん? やっぱり、甘い物はいりませんか?」
「オレも他の人と一緒なの? イルカ先生にとっては……」
そう言って顔を上げたカカシは、泣きだしそうな表情をしていた。
なんとなく、その反応を予想していたイルカははっきりと告げる。
「頂いた物には、同等の物を返すのがオレの流儀です」
まあ、一つ一つ頂いた物の価値を把握してるわけじゃないんで、平均値ってことで同じ物をお返ししてるんですけどね。
どこか楽しそうに、イルカはカカシの頬を撫でる。
「だから気持ちは、カカシさんからしか受け取ってませんし、返すのもあなただけです」
「イルカ、先生……」
「コレは、確かに他の方と同じ価値の物でしかありません。けれど、託した気持ちは、カカシさんにだけ、ですよ」
我侭な子供を諭すような口調だったけれど、イルカの正直な気持ちなのだろう。
泣きだしそうだったカカシはますます目元を潤ませ、イルカに抱きついた。
「大好きデス、イルカせんせえっ!」
「オレも大好きですよ、カカシさん」
イルカからも抱き返し、このまま甘い時間が始まる……はずだった。
が、カカシは幸せそうな声で何気なく、ふいに気になっただろうことを聞いてくる。
「そーいや、4月14日にバレンタインデーにチョコもらえなかった男と、ホワイトデーにお返しもらえなかった女が坦々麺を食うって知ってます?」
「ああ、聞いたことならありますよ。確か、ブラックデイとか……」
「オレたちにはカンケーないですよね~」
などと含み笑いながら、カカシはイルカを抱きこんだ腕を強くする。
「ま、イルカ先生はオレと会うまでブラックデーどころか、バレンタインもホワイトデーも、ナルトと一楽デショ?」
そう言い終わると同時に、イルカの家から締め出されてしまっていた。
【ショコラ ~ 彼と彼氏の事情~の後日談】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/03/07
UP DATE:2005/03/20(PC)
2009/03/08(mobile)
RE UP DATE:2024/08/01