消失点

【① 喪失感の正体を問いたい】
   〜第10の選択〜
[消失点]



「だが、カカシよ。お主、九尾に何を言うつもりか?」

 3代目火影から厳しい口調で問われ、カカシは言葉に詰まる。

 九尾からは、決めたら来いと言われた。
 火影からも、お主の見解をと求められていた。

 だが、問おうとしていることは彼らから突きつけられていた己で見つけ出さねばならない答えではないのか。

「……それは、」

 けれど、もう誰かに聞かなければ、この喪失感の正体は掴めそうにない。

 追い込まれたカカシの焦燥を察したのか、大きく紫煙を吐いた火影は立ち上がり、同行を許可した。

「……まあ、良い。ついて来い」

 昨日と同じく薄暗い通路を進み、里の地下に作られた封印の間へと続く扉の前で二人を出迎えたのはやはり見覚えのある後輩だった。
 だが、どこか戸惑った気配を滲ませている。
 それでも里長の指示となれば応じるしかなく、再び二人の暗部が同時に印を組んで封印を解除し、火影と、カカシを招き入れた。

《ほう。思ったより早く腹を決めたか……》

 闇の奥から愉快そうに獣が喉を鳴らす音が響く。
 同時に、濃密なチャクラが巨大な九尾の獣が痩せた人の子供を護るような抱え込んだ姿を形作り、広いはずの空間を埋めつくす。

《何の用だ?》

 問い掛けに3代目火影が進み出た途端、獣は気分を害したように両目を眇めるが自ら促した手前、耳を傾ける。

「九尾よ、まずはこの里に術が掛けられていると知らせてくれた事に、礼を言おう。この件は以後、儂が元で調査を続ける。そこでじゃ、都合の良い事を言うているのを承知で頼みたい。今後も、協力してくれんか?」

《……それを言う為だけに、ここへ来た訳ではあるまい?》

 獣が問い掛けたのは火影ではない。
 無視された火影も、今回また万が一を鑑みて同席している暗部の後輩も、視線を向けているのはカカシだ。

「……九尾。お前に、聞きたい事がある」

 かつてない緊張感に苛まれながらカカシは一歩前に踏み出し、縋る思いで問う。
 
「この喪失感の正体はなんだ?」

 ナルトと接触した誰もが少なからず覚える感覚ではあったが、カカシ程はっきりと感じ取った者は居なかった。
 それが何故なのか、どう考えてもカカシには理由が思い当たらない。

「……オレが、何を失ったっていうんだ?」

 既に失う物などない。
 ナルトはともかく、うみのイルカとの接点だって、何もない。

 途方に暮れた様子のカカシに、呆れたように獣が問い返す。

《……本当に、ワシにそれを聞くのか?》

「……もう、アンタに尋ねるしか、道がないっ」

 カカシの答えに、獣は目を瞑り、暫し黙り込む。
 けれど、再び目を開けた時には、これまでにない怒りを双眸に湛えて言い放った。

《ワシは言ったぞ。どうするか考え、ここへ来いとっ!》

 感情的になったせいか、獣は毛を逆立てて膨張し、燃え立つ炎の様に姿が揺らぐ。

《だが、お前は何も考えず、安易に流されたっ》

 そんな事はないと反論しかけたカカシを遮り、激昂した獣は思いもしない言葉を告げた。

《もはや、その問いは無意味だ。取り返しはつくまい》

「なっ!? どういうことじゃ、九尾よっ! 一体、なにがっ」

 火影が必死に呼びかけるが、九尾の獣は不機嫌に言い捨てるだけで取り合おうとはしない。

《……お前たちにできるのは、そのまま流れに身を任せる事だけだろう。そうすれば、いずれ、求めていた者とも出会う》

 それだけを告げ、茫然とするカカシたちに殺気を向けて退出を迫る。

《もう、コイツ……ナルトを、使うな。無理に出せば、ワシは容赦無く全てを破壊するぞ。そうだな、尾獣を相手にしなきゃならん時だけ手を貸してやろう》

 不吉な予言を残し、九尾はチャクラを集束させていく。
 己を捉えた木ノ葉隠れの里や忍など興味はなく、ただ自らを封じる子供を護るのだと態度で示して。

 そんな九尾を目の当たりにして今更ながら、気付く。
 この獣は、最初からずっとナルトを護っていた。

 何故か。

 この里で九尾だけは術に掛かっていない。
 そして誰もが失った記憶を持ち、このままでは都合が悪いとも言った。

 多分、ナルトと九尾は……。

《さあ、去れ。人間ども。勝手に殺しあうがいい》

 あと少しで何がが掴める。
 そこで再度、威嚇されて封印の間を追い出される。

 ただ、去り際に沈痛な声音で呟かれた獣の一言が、耳に残った。

《……コイツが、あの者を手に掛けるような事態にだけはしてくれるなよ……》



 【選択終了】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2014/09/27
UP DATE:2014/10/01(mobile)
RE UP DATE:2024/08/15
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