消失点
【① 火影に報告】
〜第7の選択〜
[消失点]
日が暮れたこともあり、部下を帰宅させたカカシはその足で3代目火影の元へ向かった。
この任務を請け負った初めに逐一、報告をするように言われていた事もある。
けれど、この先へ向うにはやはり、3代目の考えを聞き、その威光を借りたい。
里長を利用する不敬は棚上げするとして、まだ接触出来ていないナルトとの面談を取り付けるために。
「3代目、今よろしーでしょーか?」
「なんだぁ、カカシか?」
執務室を訪れると、猿飛アスマがいた。
2人の穏やかな雰囲気からして任務の報告などではなく、愚痴混じりの教え子自慢でも、していたのだろう。
「えーと、3代目。例の件、途中経過を報告に……」
横目にアスマを見やり、言外に聞かせても良いか確認する。
カカシとしては、手掛かりになりそうなので彼にも聞いて欲しいと考えていた。
「構わん。話せ」
それは3代目も同じなのか、息子を視線だけで留意する。
意を組んだアスマも面倒に巻き込むつもりかと嫌な顔をするものの、話を聞く気はあるようで頷いて先を促す。
「まだ、分かった事はないに等しいのですが……」
そう前置いて、カカシは続ける。
「……うみのイルカ、という少年を、ご存知ですか?」
途端、3代目とアスマは息を飲み、瞠目する。
やはり、既知のようだ。
「……イルカが、どうしたのじゃ?」
動揺を押し隠し、カカシに応えた3代目はさすがだ。
アスマはまだ茫然としている。
「……俺たちは、彼の存在を知りませんでした。なのに、イルカという名を知って、初めてナルトと目を合わせた瞬間と同じ感覚を味わいました」
まずカカシが話したのは、イルカの存在を知った経緯。
ナルトを唆して巻物を盗み出させたミズキという教師の過去を探る中で、カカシと部下2人が気に掛かったのは彼が九尾事件で失ったという幼馴染みだった。
ミズキの同僚と、婚約者のツバキから聞き出した情報からなんとかたどり着いたのが、うみのイルカという名前。
その名前を知った瞬間にあの喪失感を覚えたことから、この少年が鍵なのだと考えていることまでカカシは話した。
「で? そのうみのイルカくんって、どんな子だったんです?」
3代目がイルカを知らなければ里の資料を片っ端から当たる覚悟もしていたが、猿飛親子の様子からそれは杞憂だと安堵する。
懐かしげに目を細め、3代目は語る。
「……そうじゃのう。イルカは、お前と正反対の子供らしい子じゃったな」
「ああ。アイツのイタズラにゃ手を焼かされたが、小憎たらしいオメエに比べりゃ可愛いもんだったなぁ」
「……オレを引き合いに出す意味が分かりません……」
憮然と返すカカシだが、イルカの為人は理解できた。
自分の幼少期は思い出すまでもなく、傲慢で嫌味な子供だったと自覚している。
きっと、イルカは天真爛漫で伸びやかに育っていたのだろう。
「……あの、そんな子が、なんで?」
九尾事件が起こった時、真っ先に避難したのは非戦闘員である里の人々。
特に子供たちが優先された。
カカシやアスマらすでに上忍や中忍となっている中でも、まだ10代だった者まで戦闘区域から隔離されたのだから、当時アカデミーに通っていたであろうイルカが犠牲になる可能性は低い。
九尾が出現した、すぐ近くにいたのでもなければ。
「……それよ」
深く紫煙を吐き出して、沈鬱な声で3代目は当時を振り返る。
「イルカは確かに避難したはずじゃった。誘導に当たったアカデミーの教師も近所に住む者たちもそう証言しておる。じゃが、あやつは避難所を抜け出し、九尾の面前に表れたと聞いておる」
里内とは言え、あれだけ苛烈な戦場をアカデミー生が1人で、誰にも見咎められずに前線に辿り着けたというのは信じがたい。
しかし、3代目の表情も声音もカカシを担いでいるようには思えなかった。
「そこまで辿り着いたところでようやく、あやつの両親が保護しようとしたんじゃが、九尾の一撃で3人とも……」
イルカの両親は共に忍であった。
だからと言って、九尾という強大な敵の前で子供を庇うなんて隙を見せればひとたまりもないだろう。
黙り込んだカカシに、3代目はついでとばかりに長年に、渡って抱いてきた、疑問も吐露する。
「ただ、の。不思議なことに、イルカは見つかっておらんのじゃ……」
母親が我が子を抱き込んで庇うのを見た者がいる。
子供を抱いた妻と九尾の間に父親が立ち塞がったのも。
それなのに、両親の近くに子供の姿は見つからなかったのだ。
「……どういう、こと、ですか?」
「分からん」
状況から考えられるのは、判別不可能なまでに粉砕されていたのか、もしくは別の場所にいるのか。
今となっては分からないし、調べようもない。
これで彼についての手掛かりは、ぷつりと途切れてしまった。
となれば、残る道筋は、一つ。
「……仕方あるまい」
3代目は筆を取り、鮮やかな筆致で勅命を認める。
「カカシよ。これを持って、ナルトの元へゆけ」
これでついにナルトと接する機会を得たカカシは考える。
自我がないというあの子供になにを問うべきか。
【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2014/06/30
UP DATE:2014/07/01(mobile)
RE UP DATE:2024/08/15
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
【第8の選択】
選択期間:2014/07/01~31
①先生に会いたいか……0票
②イルカを知ってるか……4票
③恨んでいるのか……1票
(2014/07/05:集計)
[第8の選択]
選ばれし道筋→【第8の選択】
選ばれなかった道筋→【[第8の選択]】
───これが、
世界の選択───
〜第7の選択〜
[消失点]
日が暮れたこともあり、部下を帰宅させたカカシはその足で3代目火影の元へ向かった。
この任務を請け負った初めに逐一、報告をするように言われていた事もある。
けれど、この先へ向うにはやはり、3代目の考えを聞き、その威光を借りたい。
里長を利用する不敬は棚上げするとして、まだ接触出来ていないナルトとの面談を取り付けるために。
「3代目、今よろしーでしょーか?」
「なんだぁ、カカシか?」
執務室を訪れると、猿飛アスマがいた。
2人の穏やかな雰囲気からして任務の報告などではなく、愚痴混じりの教え子自慢でも、していたのだろう。
「えーと、3代目。例の件、途中経過を報告に……」
横目にアスマを見やり、言外に聞かせても良いか確認する。
カカシとしては、手掛かりになりそうなので彼にも聞いて欲しいと考えていた。
「構わん。話せ」
それは3代目も同じなのか、息子を視線だけで留意する。
意を組んだアスマも面倒に巻き込むつもりかと嫌な顔をするものの、話を聞く気はあるようで頷いて先を促す。
「まだ、分かった事はないに等しいのですが……」
そう前置いて、カカシは続ける。
「……うみのイルカ、という少年を、ご存知ですか?」
途端、3代目とアスマは息を飲み、瞠目する。
やはり、既知のようだ。
「……イルカが、どうしたのじゃ?」
動揺を押し隠し、カカシに応えた3代目はさすがだ。
アスマはまだ茫然としている。
「……俺たちは、彼の存在を知りませんでした。なのに、イルカという名を知って、初めてナルトと目を合わせた瞬間と同じ感覚を味わいました」
まずカカシが話したのは、イルカの存在を知った経緯。
ナルトを唆して巻物を盗み出させたミズキという教師の過去を探る中で、カカシと部下2人が気に掛かったのは彼が九尾事件で失ったという幼馴染みだった。
ミズキの同僚と、婚約者のツバキから聞き出した情報からなんとかたどり着いたのが、うみのイルカという名前。
その名前を知った瞬間にあの喪失感を覚えたことから、この少年が鍵なのだと考えていることまでカカシは話した。
「で? そのうみのイルカくんって、どんな子だったんです?」
3代目がイルカを知らなければ里の資料を片っ端から当たる覚悟もしていたが、猿飛親子の様子からそれは杞憂だと安堵する。
懐かしげに目を細め、3代目は語る。
「……そうじゃのう。イルカは、お前と正反対の子供らしい子じゃったな」
「ああ。アイツのイタズラにゃ手を焼かされたが、小憎たらしいオメエに比べりゃ可愛いもんだったなぁ」
「……オレを引き合いに出す意味が分かりません……」
憮然と返すカカシだが、イルカの為人は理解できた。
自分の幼少期は思い出すまでもなく、傲慢で嫌味な子供だったと自覚している。
きっと、イルカは天真爛漫で伸びやかに育っていたのだろう。
「……あの、そんな子が、なんで?」
九尾事件が起こった時、真っ先に避難したのは非戦闘員である里の人々。
特に子供たちが優先された。
カカシやアスマらすでに上忍や中忍となっている中でも、まだ10代だった者まで戦闘区域から隔離されたのだから、当時アカデミーに通っていたであろうイルカが犠牲になる可能性は低い。
九尾が出現した、すぐ近くにいたのでもなければ。
「……それよ」
深く紫煙を吐き出して、沈鬱な声で3代目は当時を振り返る。
「イルカは確かに避難したはずじゃった。誘導に当たったアカデミーの教師も近所に住む者たちもそう証言しておる。じゃが、あやつは避難所を抜け出し、九尾の面前に表れたと聞いておる」
里内とは言え、あれだけ苛烈な戦場をアカデミー生が1人で、誰にも見咎められずに前線に辿り着けたというのは信じがたい。
しかし、3代目の表情も声音もカカシを担いでいるようには思えなかった。
「そこまで辿り着いたところでようやく、あやつの両親が保護しようとしたんじゃが、九尾の一撃で3人とも……」
イルカの両親は共に忍であった。
だからと言って、九尾という強大な敵の前で子供を庇うなんて隙を見せればひとたまりもないだろう。
黙り込んだカカシに、3代目はついでとばかりに長年に、渡って抱いてきた、疑問も吐露する。
「ただ、の。不思議なことに、イルカは見つかっておらんのじゃ……」
母親が我が子を抱き込んで庇うのを見た者がいる。
子供を抱いた妻と九尾の間に父親が立ち塞がったのも。
それなのに、両親の近くに子供の姿は見つからなかったのだ。
「……どういう、こと、ですか?」
「分からん」
状況から考えられるのは、判別不可能なまでに粉砕されていたのか、もしくは別の場所にいるのか。
今となっては分からないし、調べようもない。
これで彼についての手掛かりは、ぷつりと途切れてしまった。
となれば、残る道筋は、一つ。
「……仕方あるまい」
3代目は筆を取り、鮮やかな筆致で勅命を認める。
「カカシよ。これを持って、ナルトの元へゆけ」
これでついにナルトと接する機会を得たカカシは考える。
自我がないというあの子供になにを問うべきか。
【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2014/06/30
UP DATE:2014/07/01(mobile)
RE UP DATE:2024/08/15
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
【第8の選択】
選択期間:2014/07/01~31
①先生に会いたいか……0票
②イルカを知ってるか……4票
③恨んでいるのか……1票
(2014/07/05:集計)
[第8の選択]
選ばれし道筋→【第8の選択】
選ばれなかった道筋→【[第8の選択]】
───これが、
世界の選択───