消失点
【③ 幼馴染み】
〜第6の選択〜
[消失点]
翌日の午後、ミズキの婚約者だという女性───ツバキを部下2人を伴って訪れたカカシが開口一番に尋ねたのは、彼の幼馴染みについてだった。
反逆した婚約者についての尋問だと構えていただろうツバキは理解が追いつかないのか怪訝そうに見返し、部下のサスケは上忍のクセに駆け引きもできないのかと呆れ顔で睨み付け、ヒナタは心配してくれているのか不安げに見上げる。
三者三様のリアクションに、失敗したな、と思ったところで言ってしまった言葉は今更取り消せないし、とっさの言い訳も思い浮かばない。
なんでこんなに余裕がないのか、と自己嫌悪に陥ってみても、事態はけしてよくはならないのは分かっている。
「……火影様の命令でね。アンタの婚約者、ミズキと過去に関係があった人物を探してる」
ありきたりな言葉で言い繕い、ミズキ本人とツバキ自身については先日の事件で必要な聴取を終えているから改めて聞く事はないのだとも告げた。
「時間が経っているし、些細なことだから記憶が曖昧かもしれないが、もう手掛かりがアンタしかいない」
ミズキと共に婚約を報告したという彼の幼馴染みについて覚えていたら話せと命令しつつ、懇願する勢いでカカシは問う。
すると彼女はツバキというその名に相応しく、無闇に触れればぽとりと首が落ちてしまうのではと思わせる儚げな仕草で記憶を探る様子を見せた。
「……あの時は、報告をしただけで、あの人や幼馴染みという子の昔の話はしなかったので……」
ただ、同じような墓石の立ち並ぶ共同墓地の一角に連れて行かれただけだったから、その墓の位置すらうろ覚えらしい。
だが、何かを思い出したのか、彼女はうっすらと微笑んだ。
「ずいぶん、かわいらしい名前だったから、もしかして初恋の女の子かって聞いたら、わんぱくなイタズラ小僧だったって……」
確か、と白く細い指先が支えるようにまろい頬に触れて、ツバキは呟く。
「そう、確か……イルカ」
うみのイルカ。
「そんな名前だったと……」
これ以上は話せることはないと申し訳なさそうに、だが毅然と告げる。
だが、聞いていた3人は激しく動揺していた。
その人物のことなど知らない。
名前も今初めて聞いた。
その筈なのに、まるでとても親しい人の思いがけない突然の訃報を知らされたような衝撃を受ける。
それは、初めてナルトと目を合わせた時に覚えた喪失感に酷似していた。
むしろ、同じなのかもしれない。
出逢った記憶も接触した記録もない、名前も知ったばかりの人物───うみのイルカの喪失こそがあの瞬間に覚えたものなのだとしたら。
イルカが何者か、分からない。
けれど、きっと彼こそがこの事件を解き明かす鍵であり、自分たちとナルトを繋いでいた絆だったのだ。
「協力、感謝する」
気が急いてしまって素っ気なく、だが精一杯の誠意と感謝を込めてそれだけをツバキに言い、カカシは部下を促して走った。
まだ日は高い。
向かう先は、共同墓地。
まず、本当にミズキの幼馴染みが《うみのイルカ》なのか、確認しなければ。
ならばと、手っ取り早く彼の墓を探すことから始めるつもりなのだ。
葬られている場所が正確に分からないままだから、広大で無数の墓石が並ぶ中を虱潰しに探さねばならない。
けれど、まったく手掛かりがないわけではなかった。
ミズキの言葉を思い出せば、分かる。
友人だったのなら年齢はミズキと余り変わらないだろうし、九尾事件当時はアカデミー生だった。
つまり大まかな生年と、はっきりとした享年も手掛かりだ。
「サスケ、ヒナタ。探し物は分かってるな?」
移動の途中に確認すれば、無口な2人からは頷きが返る。
「ツバキが間違えて覚えてる可能性もある。似てる名前にも注意して。生年と享年もだ」
あと、とカカシはヒナタに優しい目を向けながら、厳しい言葉で警告しておく。
殆どは遺体どころか遺品すら納められていないとは言え、墓地なのだ。
「《白眼》は使うなよ、ヒナタ」
「は、はいっ」
見なくていい物まで“視”てしまわないよう注意だけし、探索する区画を2人の部下に割り振って、カカシも墓石の名を見て回る。
だが、幾つもの良く知った、覚えのある名を見ていく作業は一歩毎に気が滅入っていく。
しっかりと踏みしめて意識的に歩き、名前の確認だけを機械的にしていなければ、この場に崩れ落ちそうだ。
それでも、探す。
心のどこかで、彼の名があるわけがない、なければいいのに、と願いながら。
だが、日が傾いて空が色を変えだした頃、カカシはサスケやヒナタとともに墓地の片隅で一つの墓石を見下ろしていた。
刻まれた名は、うみのイルカ。
生年はカカシより4つ下で、九尾事件の当時───つまり享年は10歳。
両隣には両親なのか、同じくうみのという名が刻まれている。
手掛かりは、見つかった。
それなのに、3人は途方にくれる。
見ず知らずの人が喪われたことで覚える、どうしようもない喪失感。
そして、これからどうすべきなのか、先の見えない不安。
次にすべきことは、なんなのか。
カカシは考えた。
【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2014/06/01
UP DATE:2014/06/01(mobile)
RE UP DATE:2024/08/15
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
【第7の選択】
選択期間:2014/06/01~30
①火影に報告……3票
②独自調査……2票
③意見交換……0票
(2014/06/27:集計)
[第7の選択]
選ばれし道筋→【第7の選択】
選ばれなかった道筋→【[第7の選択]】
───これが、
世界の選択───
〜第6の選択〜
[消失点]
翌日の午後、ミズキの婚約者だという女性───ツバキを部下2人を伴って訪れたカカシが開口一番に尋ねたのは、彼の幼馴染みについてだった。
反逆した婚約者についての尋問だと構えていただろうツバキは理解が追いつかないのか怪訝そうに見返し、部下のサスケは上忍のクセに駆け引きもできないのかと呆れ顔で睨み付け、ヒナタは心配してくれているのか不安げに見上げる。
三者三様のリアクションに、失敗したな、と思ったところで言ってしまった言葉は今更取り消せないし、とっさの言い訳も思い浮かばない。
なんでこんなに余裕がないのか、と自己嫌悪に陥ってみても、事態はけしてよくはならないのは分かっている。
「……火影様の命令でね。アンタの婚約者、ミズキと過去に関係があった人物を探してる」
ありきたりな言葉で言い繕い、ミズキ本人とツバキ自身については先日の事件で必要な聴取を終えているから改めて聞く事はないのだとも告げた。
「時間が経っているし、些細なことだから記憶が曖昧かもしれないが、もう手掛かりがアンタしかいない」
ミズキと共に婚約を報告したという彼の幼馴染みについて覚えていたら話せと命令しつつ、懇願する勢いでカカシは問う。
すると彼女はツバキというその名に相応しく、無闇に触れればぽとりと首が落ちてしまうのではと思わせる儚げな仕草で記憶を探る様子を見せた。
「……あの時は、報告をしただけで、あの人や幼馴染みという子の昔の話はしなかったので……」
ただ、同じような墓石の立ち並ぶ共同墓地の一角に連れて行かれただけだったから、その墓の位置すらうろ覚えらしい。
だが、何かを思い出したのか、彼女はうっすらと微笑んだ。
「ずいぶん、かわいらしい名前だったから、もしかして初恋の女の子かって聞いたら、わんぱくなイタズラ小僧だったって……」
確か、と白く細い指先が支えるようにまろい頬に触れて、ツバキは呟く。
「そう、確か……イルカ」
うみのイルカ。
「そんな名前だったと……」
これ以上は話せることはないと申し訳なさそうに、だが毅然と告げる。
だが、聞いていた3人は激しく動揺していた。
その人物のことなど知らない。
名前も今初めて聞いた。
その筈なのに、まるでとても親しい人の思いがけない突然の訃報を知らされたような衝撃を受ける。
それは、初めてナルトと目を合わせた時に覚えた喪失感に酷似していた。
むしろ、同じなのかもしれない。
出逢った記憶も接触した記録もない、名前も知ったばかりの人物───うみのイルカの喪失こそがあの瞬間に覚えたものなのだとしたら。
イルカが何者か、分からない。
けれど、きっと彼こそがこの事件を解き明かす鍵であり、自分たちとナルトを繋いでいた絆だったのだ。
「協力、感謝する」
気が急いてしまって素っ気なく、だが精一杯の誠意と感謝を込めてそれだけをツバキに言い、カカシは部下を促して走った。
まだ日は高い。
向かう先は、共同墓地。
まず、本当にミズキの幼馴染みが《うみのイルカ》なのか、確認しなければ。
ならばと、手っ取り早く彼の墓を探すことから始めるつもりなのだ。
葬られている場所が正確に分からないままだから、広大で無数の墓石が並ぶ中を虱潰しに探さねばならない。
けれど、まったく手掛かりがないわけではなかった。
ミズキの言葉を思い出せば、分かる。
友人だったのなら年齢はミズキと余り変わらないだろうし、九尾事件当時はアカデミー生だった。
つまり大まかな生年と、はっきりとした享年も手掛かりだ。
「サスケ、ヒナタ。探し物は分かってるな?」
移動の途中に確認すれば、無口な2人からは頷きが返る。
「ツバキが間違えて覚えてる可能性もある。似てる名前にも注意して。生年と享年もだ」
あと、とカカシはヒナタに優しい目を向けながら、厳しい言葉で警告しておく。
殆どは遺体どころか遺品すら納められていないとは言え、墓地なのだ。
「《白眼》は使うなよ、ヒナタ」
「は、はいっ」
見なくていい物まで“視”てしまわないよう注意だけし、探索する区画を2人の部下に割り振って、カカシも墓石の名を見て回る。
だが、幾つもの良く知った、覚えのある名を見ていく作業は一歩毎に気が滅入っていく。
しっかりと踏みしめて意識的に歩き、名前の確認だけを機械的にしていなければ、この場に崩れ落ちそうだ。
それでも、探す。
心のどこかで、彼の名があるわけがない、なければいいのに、と願いながら。
だが、日が傾いて空が色を変えだした頃、カカシはサスケやヒナタとともに墓地の片隅で一つの墓石を見下ろしていた。
刻まれた名は、うみのイルカ。
生年はカカシより4つ下で、九尾事件の当時───つまり享年は10歳。
両隣には両親なのか、同じくうみのという名が刻まれている。
手掛かりは、見つかった。
それなのに、3人は途方にくれる。
見ず知らずの人が喪われたことで覚える、どうしようもない喪失感。
そして、これからどうすべきなのか、先の見えない不安。
次にすべきことは、なんなのか。
カカシは考えた。
【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2014/06/01
UP DATE:2014/06/01(mobile)
RE UP DATE:2024/08/15
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
【第7の選択】
選択期間:2014/06/01~30
①火影に報告……3票
②独自調査……2票
③意見交換……0票
(2014/06/27:集計)
[第7の選択]
選ばれし道筋→【第7の選択】
選ばれなかった道筋→【[第7の選択]】
───これが、
世界の選択───