消失点
【③ 任意(部下が望めば同行)】
〜第4の選択〜
[消失点]
翌日、里を裏切って監獄に拘留されたミズキとの接見を果たしたカカシではあったが、事前に読んでいた調書以上の証言は得られなかった。
初対面の自分では聞けない──気付けない事もあるかと考えて彼の教え子であった部下も一応連れて来てはみたけれど、会話にはならなかったように感じる。
ミズキとの接触が目新しい証言も取れずに終わった以上、ナルト本人との面会を早くにすべきところだが、手続きにまだ時間が必要だと言われている。
さて、どうしたものか。
「……あの、カカシ先生」
「ん? どったの、ヒナタ?」
演習場への道をのんびりと歩くカカシの後ろを、監獄からずっと固い表情で俯きがちに着いてきていたヒナタが呼ぶ。
この少女は酷い人見知りで自分から話しかけることは殆どないが、その代わり他人を良く見ていた。
《白眼》という見透かす瞳術を受け継ぐ血族に生まれたせいもあるのか、何気ない言動からその人物の本質を見抜く観察眼に優れている。
まあ、それだけの才がありながら自分に自信が持てず、常に挙動不審なくらいにオドオドモジモジしているのはどうかと思うが。
だから、そんな彼女が特別監獄でのミズキとの接見に同行すると自分から言い出した時は、正直驚いた。
上官のカカシにも欠片ほどの敬意も見せないサスケなら、きっと檻の無い所で数百人の凶悪犯に囲まれたとしても涼しい顔で皮肉を言い、襲いかかられたとしても不敵に笑って叩きのめすだろう。
けれど友人にもはっきりと言えないヒナタが、里の重罪人ばかりを集めた監獄へ行くなんて自分から言い出すとは流石に想像出来なかった。
まあ現実、監獄に入る前から緊張しているのか固い表情をしていたし、ミズキとも挨拶を交わした程度の会話だけだったから、やはり連れて来たのは失敗だったかとカカシの方が反省していたのだけれど。
「あの、ミズキ先生、は……友達の、敵討ちが、したかったんだと、思うんです」
「友達、ねえ……」
確かに、あの男は言っていた。
散々、自分勝手でお門違いの恨み辛みを並べ立てた末に、ぽつりと。
───アイツが死んだっていうのに、あの化け物がのうのうと生きているなんて、おかしいじゃないか……
あの事件の時、既に上忍だったカカシより1つ年上のミズキはまだアカデミーに在籍していたという。
当時は第三次忍界大戦の末期でカカシのように才能ある子供は促成され忍になっていた。
つまり、彼の才とはその程度なのだろう。
だからあの時は、彼も友人も皆、守られていたはずだ。
それでも、子供が全員無事だったわけではない。
九尾が出現してから避難が完了するまでの間にも、多くの犠牲者が出ている。
きっとその中に、ミズキの友人も居たのだろう。
「……不思議、なんです……」
俯いたまま歩きながら、戸惑いがちにヒナタは告げる。
「私……ミズキ先生の、友達なんて、知らない、のに……」
その人の事を、考えると。
そう呟くヒナタは痛みを堪えるように胸を押さえ、懐かしさと寂しさをない交ぜにした微笑を浮かべていた。
「なんで、なのか……ナルトくん、が……笑ってる顔、思い出して……」
ミズキの友人がナルトの生まれたあの日に死んだというのなら、その後に生まれたヒナタがその人物を知るはずがない。
カカシにしても、年が近いという外にミズキとは接点もなく、同じ里に暮らしていたから過去に彼らとすれ違ったことはあるかもしれないが、個人としての認識は不可能だ。
「……そう、か……」
なのに、カカシもミズキが失った友人を思えば、どういう訳だか覚えのないナルトとの思い出に繋がる。
友人らしき少年たちとアカデミーを駆け回るやんちゃ坊主。
呆れ顔で見やるサスケや、遠巻きに見つめるヒナタまでも。
そして、彼らを見守る教師のミズキと、見知らぬ誰か。
「……調べてみますかね」
綻びを漸く見つけた。
面識のない子供と、かつていた少年。
彼らが、鍵だ。
ナルトにはまだ会えそうになく、既に居ない者には二度と会えないけれど。
術を解き、この消失感が埋まったら、と考える。
「ね、ヒナタ」
「なんですか?」
不意に足を止めて振り返り、俯いた顔を覗き込んで、笑いかけた。
「ナルトとは、仲良かったの?」
瞬間、朱をぶちまけたようにヒナタの顔面は染まった。
「え? ええ! えええーとっ、あのっ、わたしっ、ナルトくんっ、とはっ……」
激しくドモリながら告げられる言葉を拾って繋ぎ合わせれば、行き会えば挨拶を交わすぐらいで特に親しかったのではないらしい。
まあ、お子様なナルトと恥ずかしがり屋のヒナタならそんなものだろう。
それでも、ヒナタがナルトに好意を寄せていたのは分かる。
「そっか」
頷いて、幼い想いを肯定してやるけれど、カカシにはこの年頃の少女たちが抱く恋愛感情など正直分かりはしない。
自分が彼らの年頃だった時は、不要な物と切り捨てて顧みることもなかった。
だが、この状況でもあの子供に好意を寄せる存在に安堵する。
思い返せば、監獄の禍々しい門で普段はオドオドとしているヒナタが毅然と前を向いていた。
きっと彼女の想いは、甘く優しい幼恋だけではない。
里の理不尽に押し潰されそうでもたった独りで立とうとするナルトの姿に、日向という大家を背負う自分と重ね、あの子のようでありたいと憧れたのだ。
このまま指導を続けたら、ミズキが潰えさせたナルトの夢を彼女が継ぐかもしれない。
「ま。どーなりますかねえ」
不確定要素だらけの未来に気分を浮上させ、カカシは軽い足取りで演習場へと入っていく。
監獄への同行を誇示したサスケは1人で修行をさせていたが、組み手に掛ける体力は残しているだろうか。
なんて心配もしながら、次の行動も算段をつける。
ミズキの過去を洗うには、やはり聞き込みか。
だとしたら、相手は。
【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2014/03/31
UP DATE:2014/04/01(mobile)
RE UP DATE:2024/08/15
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
【第5の選択】
選択期間:2014/04/01~30
①友人……0票
②元同僚……5票
③元教え子……3票
(2014/04/30:集計)
[第5の選択]
選ばれし道筋→【第5の選択】
選ばれなかった道筋→【[第5の選択]】
───これが、
世界の選択───
〜第4の選択〜
[消失点]
翌日、里を裏切って監獄に拘留されたミズキとの接見を果たしたカカシではあったが、事前に読んでいた調書以上の証言は得られなかった。
初対面の自分では聞けない──気付けない事もあるかと考えて彼の教え子であった部下も一応連れて来てはみたけれど、会話にはならなかったように感じる。
ミズキとの接触が目新しい証言も取れずに終わった以上、ナルト本人との面会を早くにすべきところだが、手続きにまだ時間が必要だと言われている。
さて、どうしたものか。
「……あの、カカシ先生」
「ん? どったの、ヒナタ?」
演習場への道をのんびりと歩くカカシの後ろを、監獄からずっと固い表情で俯きがちに着いてきていたヒナタが呼ぶ。
この少女は酷い人見知りで自分から話しかけることは殆どないが、その代わり他人を良く見ていた。
《白眼》という見透かす瞳術を受け継ぐ血族に生まれたせいもあるのか、何気ない言動からその人物の本質を見抜く観察眼に優れている。
まあ、それだけの才がありながら自分に自信が持てず、常に挙動不審なくらいにオドオドモジモジしているのはどうかと思うが。
だから、そんな彼女が特別監獄でのミズキとの接見に同行すると自分から言い出した時は、正直驚いた。
上官のカカシにも欠片ほどの敬意も見せないサスケなら、きっと檻の無い所で数百人の凶悪犯に囲まれたとしても涼しい顔で皮肉を言い、襲いかかられたとしても不敵に笑って叩きのめすだろう。
けれど友人にもはっきりと言えないヒナタが、里の重罪人ばかりを集めた監獄へ行くなんて自分から言い出すとは流石に想像出来なかった。
まあ現実、監獄に入る前から緊張しているのか固い表情をしていたし、ミズキとも挨拶を交わした程度の会話だけだったから、やはり連れて来たのは失敗だったかとカカシの方が反省していたのだけれど。
「あの、ミズキ先生、は……友達の、敵討ちが、したかったんだと、思うんです」
「友達、ねえ……」
確かに、あの男は言っていた。
散々、自分勝手でお門違いの恨み辛みを並べ立てた末に、ぽつりと。
───アイツが死んだっていうのに、あの化け物がのうのうと生きているなんて、おかしいじゃないか……
あの事件の時、既に上忍だったカカシより1つ年上のミズキはまだアカデミーに在籍していたという。
当時は第三次忍界大戦の末期でカカシのように才能ある子供は促成され忍になっていた。
つまり、彼の才とはその程度なのだろう。
だからあの時は、彼も友人も皆、守られていたはずだ。
それでも、子供が全員無事だったわけではない。
九尾が出現してから避難が完了するまでの間にも、多くの犠牲者が出ている。
きっとその中に、ミズキの友人も居たのだろう。
「……不思議、なんです……」
俯いたまま歩きながら、戸惑いがちにヒナタは告げる。
「私……ミズキ先生の、友達なんて、知らない、のに……」
その人の事を、考えると。
そう呟くヒナタは痛みを堪えるように胸を押さえ、懐かしさと寂しさをない交ぜにした微笑を浮かべていた。
「なんで、なのか……ナルトくん、が……笑ってる顔、思い出して……」
ミズキの友人がナルトの生まれたあの日に死んだというのなら、その後に生まれたヒナタがその人物を知るはずがない。
カカシにしても、年が近いという外にミズキとは接点もなく、同じ里に暮らしていたから過去に彼らとすれ違ったことはあるかもしれないが、個人としての認識は不可能だ。
「……そう、か……」
なのに、カカシもミズキが失った友人を思えば、どういう訳だか覚えのないナルトとの思い出に繋がる。
友人らしき少年たちとアカデミーを駆け回るやんちゃ坊主。
呆れ顔で見やるサスケや、遠巻きに見つめるヒナタまでも。
そして、彼らを見守る教師のミズキと、見知らぬ誰か。
「……調べてみますかね」
綻びを漸く見つけた。
面識のない子供と、かつていた少年。
彼らが、鍵だ。
ナルトにはまだ会えそうになく、既に居ない者には二度と会えないけれど。
術を解き、この消失感が埋まったら、と考える。
「ね、ヒナタ」
「なんですか?」
不意に足を止めて振り返り、俯いた顔を覗き込んで、笑いかけた。
「ナルトとは、仲良かったの?」
瞬間、朱をぶちまけたようにヒナタの顔面は染まった。
「え? ええ! えええーとっ、あのっ、わたしっ、ナルトくんっ、とはっ……」
激しくドモリながら告げられる言葉を拾って繋ぎ合わせれば、行き会えば挨拶を交わすぐらいで特に親しかったのではないらしい。
まあ、お子様なナルトと恥ずかしがり屋のヒナタならそんなものだろう。
それでも、ヒナタがナルトに好意を寄せていたのは分かる。
「そっか」
頷いて、幼い想いを肯定してやるけれど、カカシにはこの年頃の少女たちが抱く恋愛感情など正直分かりはしない。
自分が彼らの年頃だった時は、不要な物と切り捨てて顧みることもなかった。
だが、この状況でもあの子供に好意を寄せる存在に安堵する。
思い返せば、監獄の禍々しい門で普段はオドオドとしているヒナタが毅然と前を向いていた。
きっと彼女の想いは、甘く優しい幼恋だけではない。
里の理不尽に押し潰されそうでもたった独りで立とうとするナルトの姿に、日向という大家を背負う自分と重ね、あの子のようでありたいと憧れたのだ。
このまま指導を続けたら、ミズキが潰えさせたナルトの夢を彼女が継ぐかもしれない。
「ま。どーなりますかねえ」
不確定要素だらけの未来に気分を浮上させ、カカシは軽い足取りで演習場へと入っていく。
監獄への同行を誇示したサスケは1人で修行をさせていたが、組み手に掛ける体力は残しているだろうか。
なんて心配もしながら、次の行動も算段をつける。
ミズキの過去を洗うには、やはり聞き込みか。
だとしたら、相手は。
【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2014/03/31
UP DATE:2014/04/01(mobile)
RE UP DATE:2024/08/15
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
【第5の選択】
選択期間:2014/04/01~30
①友人……0票
②元同僚……5票
③元教え子……3票
(2014/04/30:集計)
[第5の選択]
選ばれし道筋→【第5の選択】
選ばれなかった道筋→【[第5の選択]】
───これが、
世界の選択───