消失点

【① カカシ】
   〜第2の選択〜
[消失点]



 尾獣のチャクラに赤く染まった仮面越しの瞳に射竦められた瞬間、カカシは酷い喪失感に襲われた。

 まるで、足下の大地が崩れて地の底深く落ちていく。
 そんな気持ちを味わうような、大切な何か───物を、事を、人を、失った記憶すら忘れている、と気付いてしまった。

 だが、一体、何を忘れて誰を喪ったのか、と記憶をさらってみたところで、思い当たる出来事すらない。

 いや、長く忍として生きてきた中で、喪った人は多い。
 自分の大切な人は、みんな死んでしまった。
 けれど、彼らとの思い出に、欠けた部分などない。

 もちろん、これまで起きた出来事を全て覚えているわけではなかった。
 忘れてしまった些細なやりとりも、自分が知らないままの不可解な出来事だってある。
 ただ、それらを省みたところで、そこにこんな衝撃を受けるような何かが隠れているとは考えにくい。
 
 それに───暗部2小隊に引き摺られていった、あの子供がきっかけとなって気づいたのなら、多分なんらかの共通点があるはずだ。

 まだきちんと対面したこともないけれど、あの子供とカカシを繋ぐ接点は1つだけある。

───先生……

 カカシのスリーマンセル時代の師。
 4代目火影として、あの子供に九尾を封じて命を落とした英雄。
 あの子供───ナルトの、父親。

 だが、あの子供は自分の父親については何も知らない。
 慕っていた教師に裏切られて暴走した時、なぜ里の人々から疎まれるのか──己の身体にかつてこの里を壊滅状態に陥れた化け物が封じられているから、お前も化け物なのだ、と──教えられただけだと聞いている。
 長い間、伏せられてきたその秘密を暴露した教師も隠されてきた真相を知らずにいたのだと。

 第一、カカシは子供とは会ったこともない。

 尊敬する師とその細君が誕生を心待ちにしていた頃から子供の存在を知ってはいるが、やはり彼らが命を落とした背景が正確には分からないままだったから会うことは出来なかった。
 慈しんでくれたであろう両親を亡くし、人柱力となって里の人々から疎外され、行き場のない感情を募らせて生きている子供の様子は噂に聞くだけ。
 忍者アカデミーに入学した、と知った時にはいずれ自分が上忍師となれたらと夢想して、自分はそんな器ではないと自嘲したものだ。

───だが、考えられるのは、やはりアイツ絡みと考えるべき、かねぇ……

 すっぽりと抜け落ちていたのに、これまでなんの不都合もなく、違和感も覚えなかった。
 なのに、あの子供と視線が交錯しただけで襲ってきた喪失感。

 つまり、あの子供とカカシの間には何らかの関わりがあって、それを丸ごと忘れている。
 それもカカシ1人ではなく、この里の誰もが。

 そして、焦りを抱いた。

 この里に、術がかけられている。
 誰一人気づかぬまま。

 そう思い至って、ぞっとした。

「ちぃっと聞きたいんだけどー?」

 あの子供と暗部が去り、活気の戻り始めた大通りをまだ見下ろしている部下たちに、内心の動揺を押し隠してカカシは問う。

 彼らは忍者アカデミーであの子供と同期だったけれど、大人たちに倣って仲間外れにしたりはやし立てたりするような事はしていなかったらしい。

 それは彼らの家庭の事情や本人の性格もある。
 それでも、級友たちの尻馬に乗って、ということもなかったのだろう。

 今だって、ただあの子供に全てを背負わせるだけの里人とは違う目で、通りを見つめている。

「ね、お前らの先生って、どんな人だった?」

「……ミズキ、の事か?」

 苦い物でも口にしたかのように眉間の皺を深くしてサスケは問い返し、ヒナタも珍しく嫌悪感を滲ませた声で答えた。

「……ミズキ、先生は、なんだか好きになれなくて……」

「保護者や教師の評判は悪くなかったが、アイツの笑顔は胡散臭かったぜ」

「ふぅん。 そっか」

 ミズキという中忍が彼らをアカデミーで受け持っていた教師であり、信頼していたあの子供を唆した裏切り者だ。

 一度、3代目に許可を貰って会っておくべきかもしれない。
 あの子供にとって、ミズキという男が唯一の《先生》だったのだから。
 


 【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2014/01/31
UP DATE:2014/02/01(mobile)
RE UP DATE:2024/08/15
 


   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



【第3の選択】
選択期間:2014/02/01~28



①ナルト……0票

②3代目……3票

③ミズキ……1票

   (2014/02/28:集計)



[第3の選択]
 選ばれし道筋→【第3の選択
 選ばれなかった道筋→【[第3の選択]



───これが、   
   世界の選択───
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