ほどこしの日

【ほどこしの日】
   ~26才~
[ほどこしの日]



 その習慣を知ったのは、いつだっただろう。

 自分の生まれた事を両親や周囲の人、時に神に感謝して贈り物をする。

 子供だったから、自分が貰えるほうが嬉しいよなぁなんて考えた。
 それでも、こういう行為の出来る人間には憧れた。
 余裕のある、大人のすることだと感じたのだ。

 実際は、君主や貴族が領民に施しをすることで支持を得る、方便だったのかもしれない。

 真似てみようと思い立ったのは、10才だっただろうか。

 任務に出る父を見送る途中、不格好な手縫いのお守り袋を渡した。
 中に何を入れたのか覚えていない。
 ただ、とても喜んでいたのは忘れずにいる。

 翌年は母に渡そうと決めた。
 けれど、11才の誕生日に両親はいなかった。

 12才になって慰霊碑に白い花を持って行くまで、誕生日の贈り物のことはすっかり忘れていた。
 
 以来、自分の誕生日が近付くと何かしら理由をみつけて周囲にささやかな贈り物をするのが、習慣になってしまった。

 火影様に任務のお土産だとか、友人に探していた本だとか、タイミングよく腹を空かせていた生徒(大概、ナルトだ)を一楽に連れ込んだり。

 昔から何かと出会う上忍には食糧せびられたり、忍具強奪されたり、予備の着替え盗まれたり。

「イルカ先生~」

 まあ、なんだかんだでお付き合いまでしているのだし、今はそれなりに幸せだから後悔はない。

「なんです、カカシさん?」

 偶然、オレ達の交際を知った彼の後輩は、ちょっとかわいそうなくらい狼狽していたっけ。

「慰霊碑、行きましょ」

 付き合い始めてから、必ずこの日にアンタはオレを誘う。

「そ、ご両親と3代目にお花でも持って」

 とても、嬉しそうに。

「それから、ナルトやサクラも誘って一楽行きましょ」

 なら、テンゾウ───基、ヤマトさんと、サイくんも来るかもなあ。
 だとしたら、払いはヤマトさんだ。
 後でお礼言わないと。

「今日は、感謝の日なんです」

 恥ずかしいこと大声でほざくな。
 この電波上忍め。

「アナタを生んだご両親や、育てた3代目に」

 だから、1人で慰霊碑に行くところだったのに。

「アナタと共にあった友人や同僚、それと生徒たちに」

 ああ。
 それと、オレを愛してくれる、アンタにもだ。

「みんなが大好きな、イルカ先生のお誕生日ですからね」

 くそう。
 いい笑顔しやがって。
 ヘタレの癖に。

 なんてことは言わないでおいてやる。
 折角の誕生日だ。

 泣くほど嬉しいなんて、悟られたくねえ。



 【了】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2009/06/02
UP DATE:2009/06/03(mobile)
RE UP DATE:2024/08/13
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