ほどこしの日

【サプライズ】
   ~24才~
[ほどこしの日]



「どうぞ」

 里外れの銭湯でかち合う知り合いなどいないと思い込んでいたから、差し出された瓶牛乳に一瞬、驚いた。

「どうも」

 昔ながらの銭湯でありながら、実はかけ流し温泉というこの穴場を教えてくれた人の良い中忍と知り合ったのは数年前。

「お久しぶりです」

「ええ」

 1人の特殊な事情を抱える子供を介してだ。
 当時、アカデミー生だったその子を教えていたのが彼で、自分はその護衛。
 いざという時にはその子供ごと、という嫌な役回りは彼のお陰もあって回避された。
 幸いにも子供は無事にアカデミーを卒業し、今は里を離れて修行をしているという。

「お元気そうでなによりです」

「先生こそ」

 ただ、彼との接点がなくなってこうして顔を合わせるのは久々だ。
 湯上がりの頭に手拭いを巻き、腰に手を当てて牛乳を飲み干している。
 仕草の一々を生徒たちにオヤジ臭いとからかわれていると笑っていた。
 同い年だと告げたら、彼はどうするだろう。

「先生は今もアカデミーに?」

「ええ。相変わらず、悪戯小僧どもを追いかけ回してます」

 楽しげに微笑んで、彼は空の牛乳瓶を壁際に置かれた回収箱へ収める。
 人の良い、忍者としては甘すぎるところも見られる彼だが、存外優秀な中忍であり、いい教師だ。
 彼を幼少時から知る3代目火影が将来を心配していたが、過分な老婆心からだったのだろう。
 思いがけない再会に、交流を深めたいなと考えた矢先、駆けつけた人に目を疑う。

「……先輩?」

「イルカ先生。迎えに来ました」

「カカシさん」

 彼に見えない位置で覆い隠した口元に人差し指を立てるのは、暗部で優秀で優秀で憧れた先輩だった。

「それじゃあ、失礼します」

「じゃあねーえ、テンゾウくん」

「……え?」

 去っていく2人の関係を悟って心底、驚いた。

「えええ~っ!!!」



 【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2009/05/20
UP DATE:2009/05/23(mobile)
RE UP DATE:2024/08/13
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