ほどこしの日

【言えなかった言葉たち】
   ~22才~
[ほどこしの日]



「良かったら、飲みに行きませんか?」

 ずっと、言おう言おうと思うばかりで言えずにいた誘いの言葉だ。

 よし、今日こそ。

 思い立って、勢い込んでいただけに、思いの外ショックがデカい。
 嬉しいんだけど、ちぃっと悲しい。
 男として負けた感が否めない。
 泣いていいよね。
 先に言われちゃったらさ。

「あの……」

 迷惑でしたか、なんて言いたげな瞳でみないでください。
 全然ちっともまったく迷惑なんかじゃありませんから。
 ワタフネにタナボタで、カモネギがスエゼンですからっ。
 むしろ好都合過ぎて、抑圧しまくった妄想が見せる幻覚じゃないの、とか考えちゃったりしたくらいですから。

「……いいですよ。行きましょうか」

 上忍で良かったなあ、オレ。
 心臓爆発寸前だってのに、涼しい顔してられるよ。

 あ、でも、嬉しそうですね。
 そんな風に笑われたら、オレまで嬉しくなるじゃない。
 
「どーしました? 良いことでもありました?」

「ええ、ちょっと」

 なんてね。
 知ってます。

───誕生日おめでとう、イルカ先生

 アナタが望んでないから、言いませんけど。

 だって、思い出して辛いんでしょ。
 誕生日は両親に感謝する日って、考えてるアナタにはね。

 代わりに、1人では寂しい夕餉に誘ってくれてありがとう。

「どこ行きましょうか~?」

 それくらいには、アナタに好かれてるって自惚れても良いですか?

 だってずっと、2人並んで歩くのを夢見てた。

「やっぱり酒酒屋ですかねぇ」

 昔は結構、普通に話せたのに。
 歳食った分、臆病になったのかねえ。

 ああ、お願いですからヘタレだなんて言わないで。
 ガラスのハートがちょっとだけ、人より傷つきやすいだけです。

 ついでに、ストーカーでもありません。
 長い長い、純情な片思いです。

 【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2009/06/01
UP DATE:2009/06/03(mobile)
RE UP DATE:2024/08/13
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