ほどこしの日

【きっかけ】
   ~14才~
[ほどこしの日]



「ね、」

 声をかけると驚いた目が真っ直ぐに見つめ返した。

「ちぃっと、装備都合して貰える?」

 改めて額当てを確認すれば、間違いなく味方。
 ま、こんな里外で接触することなんてめったにないんだけど。

「任務帰りに救援入っちゃったんだけどさ、装備が心許ないのよ」

 言い訳めいた事情説明しながら、相手を更に観察する。
 額当てはしているが、忍者というより、その辺のイタズラ小僧だ。

「忍具はいい。食料と、応急キットに余分があれば分けてくんない?」

 下忍か、新人中忍というところか。
 任務中なようだが、さして危険のないDランクだろう。

「すみません、オレ、任務というか、お使いの途中で……」

 そう言われ、落胆しかけた鼻先に未使用の応急キットが差し出される。

「えっと?」

「応急キットは多分、使わずに済むので、差し上げます。食料は……」
 
 背負ったバッグから取り出したのは、竹皮に包んだ握り飯だった。

「こんなものしか……」

 これはいくら自分でも気が引ける。

「いいの? 貰っちゃっても」

「ええっ、でもっ、いいんですか?」

「なにが?」

 自分の食い扶持に毒を仕込むなんてまず有り得ないから、そこらで調達するよりよっぽど安全。
 そんな考えで、目に留まった同朋の食料を頂こうって腹なのに。

「だって、オレが……」

「アンタが握ったの?」

 だったら、ますます安心な気がする。
 味なんか、どうでもいいんだし。

「有り難く、頂きます。んじゃね」

 貰った物をポーチにしまい、近くの枝へ飛び上がった。

「あ、あのっ!」

「3代目に、補充手当て出してって言っとくからね~」

 言い捨てて、救援へと走る。
 いやその前に、この握り飯をどこで食おうか。



 【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2009/05/26
UP DATE:2009/05/27(mobile)
RE UP DATE:2024/08/13
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