バースデーがのしかかる
【automatic】
〜 家電編 〜
[バースデーがのしかかる]
今週1週間、イルカはずっとご機嫌だった。
先週末、恋人と誕生日プレゼントを選びに行って、ずっと欲しかったモノを買って貰ったのである。
それが届くのは、今日の午後。
待ちきれないのか、イルカは朝早くから起き出し、それが収まる場所だけでなく家中を掃除して回っている。
雑巾やら掃除機やらを手に走り回るイルカを横目に、カカシは愛読書を手にゴロゴロと過ごしていた。
けれど、手にした本に隠されたその口元は、そのいかがわしい本の内容よりいやらしく歪んでいる。
何しろイルカはこの1週間、本当にご機嫌だったのだ。
普段は嫌がって怒りまくるカカシの要求に、この数日は恥じらいながら応えてくれたりもした。
その姿を思い出しては、顔が緩む日々がカカシも続いている。
しかし、朝からずっと構ってもらっていない。
いや、朝と昼の食事は用意してもらったけれど、さっさと食べ終えたイルカはまた掃除に掛かりきりだ。
後片付けを終えたカカシヘ、いつものような笑顔と労いの言葉すら向けてはくれない。
それはちょっぴり淋しいなあと思いつつ、ごろりと姿勢を変える。
ちらりと時計を見れば、そろそろ配達を頼んだ時間だ。
アレが届けばまた配線だの、取り扱いの確認だので忙しくなるだろう。
カカシは台所で湯を沸かしてカップやらポットやらお茶菓子やらを用意し、声をかけた。
「イルカせんせー、一服しませんか~?」
しかし、返事がない。
聞こえないはずもないのに、と不思議に思いながら脱衣所を覗いた。
「イルカせんせ~? ……って」
掃除に熱中しているか、長いこと使ってきた愛着ある家電との名残を惜しんでいるのか、そう思っていた。
なのにイルカときたら、寝ているのである。
雑巾を握り締めたまま、古い2層式の洗濯機に寄りかかって。
穏やかに寝息を立てるイルカの傍らへしゃがみ、寝顔を覗き込む。
軽く頬を突いてみても、眼を覚ます様子はない。
「……あーあ~ぁ、朝から張り切るから~」
この1週間、しっかりと人の倍の仕事をし、カカシの世話や相手もして、休日の今日も早朝から休み無く立ち働いていたのだ。
疲れていないはずがない。
「しょーがないねえ」
右手から雑巾を抜いてやると、ずっと握り締めていた指はふやけてしわしわになっている。
ふふっと笑って、カカシはそのふやけた指を握ってみた。
「……本当にこんな風になるまで、一緒にいましょーね」
そんなことを呟き、カカシ意識の無いイルカの───殆ど体格の変わらない男の、身体を軽々と抱き上げ、寝室へ向かう。
その時、玄関に人の気配がした。きっと、業者がイルカ待望の全自動乾燥洗濯機を配達にきたのだろう。
到着を一番楽しみにしていたイルカだが、起こすにはしのびない。このまま、寝かせてやりたかった。
呼び鈴に、カカシはのんびりと応える。
「は~い、ちょーっと待っててね~」
大事な人を寝室へ運んでから、少し日を過ぎた誕生日プレゼントを迎えいれるのだ。
【了】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2005/05/26
UP DATE:2005/05/26(PC)
2009/05/26(mobile)
RE UP DATE:2024/08/13
〜 家電編 〜
[バースデーがのしかかる]
今週1週間、イルカはずっとご機嫌だった。
先週末、恋人と誕生日プレゼントを選びに行って、ずっと欲しかったモノを買って貰ったのである。
それが届くのは、今日の午後。
待ちきれないのか、イルカは朝早くから起き出し、それが収まる場所だけでなく家中を掃除して回っている。
雑巾やら掃除機やらを手に走り回るイルカを横目に、カカシは愛読書を手にゴロゴロと過ごしていた。
けれど、手にした本に隠されたその口元は、そのいかがわしい本の内容よりいやらしく歪んでいる。
何しろイルカはこの1週間、本当にご機嫌だったのだ。
普段は嫌がって怒りまくるカカシの要求に、この数日は恥じらいながら応えてくれたりもした。
その姿を思い出しては、顔が緩む日々がカカシも続いている。
しかし、朝からずっと構ってもらっていない。
いや、朝と昼の食事は用意してもらったけれど、さっさと食べ終えたイルカはまた掃除に掛かりきりだ。
後片付けを終えたカカシヘ、いつものような笑顔と労いの言葉すら向けてはくれない。
それはちょっぴり淋しいなあと思いつつ、ごろりと姿勢を変える。
ちらりと時計を見れば、そろそろ配達を頼んだ時間だ。
アレが届けばまた配線だの、取り扱いの確認だので忙しくなるだろう。
カカシは台所で湯を沸かしてカップやらポットやらお茶菓子やらを用意し、声をかけた。
「イルカせんせー、一服しませんか~?」
しかし、返事がない。
聞こえないはずもないのに、と不思議に思いながら脱衣所を覗いた。
「イルカせんせ~? ……って」
掃除に熱中しているか、長いこと使ってきた愛着ある家電との名残を惜しんでいるのか、そう思っていた。
なのにイルカときたら、寝ているのである。
雑巾を握り締めたまま、古い2層式の洗濯機に寄りかかって。
穏やかに寝息を立てるイルカの傍らへしゃがみ、寝顔を覗き込む。
軽く頬を突いてみても、眼を覚ます様子はない。
「……あーあ~ぁ、朝から張り切るから~」
この1週間、しっかりと人の倍の仕事をし、カカシの世話や相手もして、休日の今日も早朝から休み無く立ち働いていたのだ。
疲れていないはずがない。
「しょーがないねえ」
右手から雑巾を抜いてやると、ずっと握り締めていた指はふやけてしわしわになっている。
ふふっと笑って、カカシはそのふやけた指を握ってみた。
「……本当にこんな風になるまで、一緒にいましょーね」
そんなことを呟き、カカシ意識の無いイルカの───殆ど体格の変わらない男の、身体を軽々と抱き上げ、寝室へ向かう。
その時、玄関に人の気配がした。きっと、業者がイルカ待望の全自動乾燥洗濯機を配達にきたのだろう。
到着を一番楽しみにしていたイルカだが、起こすにはしのびない。このまま、寝かせてやりたかった。
呼び鈴に、カカシはのんびりと応える。
「は~い、ちょーっと待っててね~」
大事な人を寝室へ運んでから、少し日を過ぎた誕生日プレゼントを迎えいれるのだ。
【了】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2005/05/26
UP DATE:2005/05/26(PC)
2009/05/26(mobile)
RE UP DATE:2024/08/13