バースデーがのしかかる
【Suite Sweetness】
〜 飲み物編 〜
[バースデーがのしかかる]
顔を上げ、ぐっと伸びをする。
正面の窓の景色はすっかり闇に染まっていた。
「もう、こんな時間か……」
呟いて首や肩を解し、再び書類へ眼を落とす。
イルカの机に積まれた紙の束は、ようやく四半分を残すだけ。
アカデミーと任務受付を兼任していると、どうしても仕事が溜まりがちになる。
授業が終わっても、教師の仕事もそれで終わりではないのだ。
資料をまとめたり、テストを作って採点して成績表をつけたり……。
授業を終えてから受付をこなてからそういった処理を済ませるのは慣れてきたとは言え、やはり疲れる。
特にこの時期は、色々と難しいのだ。
新たに受け持った生徒たちも、そろそろ2ヶ月。
先月から変わった生活や環境に慣れ───というより、狎れてきた時期。
ここで上手く引き締めないと、ぼろぼろと脱落していく者も出てくる。
それは送り出した教え子たちも一緒だ。
まあ、下忍として任務をこなしている者たちは、担当している上忍師が対処できるからいい。
そこまで考え、イルカは仕事───書類の内容をチェックすればいいだけなのだが───をとても続ける気にはなれず、握っていたペンをくるりと指先で回した。
一度は卒業したものの、下忍選抜に落ちてアカデミーに戻された者が1人が、去っていった。
本人は考えた末に、きちんと覚悟をしての決定だったからか、からりと笑って。
けれど残された者たちには、いずれは取らねばならない決断だからか、重く圧し掛かっているようだった。
今更ながら、彼らも忍者の残酷な不文律───その一端に、触れて戸惑っているのだろう。
望む者全員が忍になれるワケではない。
なったとしても、先へ進める者は少なく、生き残って名を上げる者はもっと少ない。
こういった選別の繰り返しは、どの世界でも同じはずだ。
けれど、忍はそれが生死に直結している。
家柄も才能のあるなしも、関係はない。
どんな形であれ、最後まで生き残った者だけが……。
「イルカせんせい?」
ふいに傍らから、声がした。
そちらをみやると、最近よく見かけるようになった人物が立っている。
「……カカシ、さん?」
イルカにとって最も印象深く、そして未だに心配のタネである教え子───うずまきナルト。
その上忍師───はたけカカシがアカデミーの教員室に何の用があるのかと考え、思い至るのは一つ。
「ええっと、何か私に御用でしょうか?」
「ええ、ま、用っていっちゃあ用、なんですけどね……」
言いにくそうに視線をそらされて、やはりな、とイルカは心の中で呟いた。
多分、アカデミーでもおちこぼれていたナルトのことだろう。
あの子はやる気だけはあるのだが、基礎の無さと望みの高さで空回りをして失敗を繰り返すのだ。
「あの」
「ええっとですね……」
同時に言い出し、イルカは口をつぐむ。
カカシは、何故か手にしていた紙コップを差し出した。
「どうぞ」
「え? あ、ありがとう……ございます……」
慌てて受け取った手がひやりとする。
アイスココアだった。
何故、と問い返そうとするイルカへ、カカシはふわりと微笑んで、告げる。
「お誕生日おめでとーございます」
「え?」
なんで、と問い返す前に、もうカカシの姿は消えていた。
「そっか……」
今日だったのかと、イルカは一人ごちる。
[Suite Sweetness]組曲、甘味
【了】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2005/05/15
UP DATE:2005/06/01(PC)
2009/05/26(mobile)
RE UP DATE:2024/08/13
〜 飲み物編 〜
[バースデーがのしかかる]
顔を上げ、ぐっと伸びをする。
正面の窓の景色はすっかり闇に染まっていた。
「もう、こんな時間か……」
呟いて首や肩を解し、再び書類へ眼を落とす。
イルカの机に積まれた紙の束は、ようやく四半分を残すだけ。
アカデミーと任務受付を兼任していると、どうしても仕事が溜まりがちになる。
授業が終わっても、教師の仕事もそれで終わりではないのだ。
資料をまとめたり、テストを作って採点して成績表をつけたり……。
授業を終えてから受付をこなてからそういった処理を済ませるのは慣れてきたとは言え、やはり疲れる。
特にこの時期は、色々と難しいのだ。
新たに受け持った生徒たちも、そろそろ2ヶ月。
先月から変わった生活や環境に慣れ───というより、狎れてきた時期。
ここで上手く引き締めないと、ぼろぼろと脱落していく者も出てくる。
それは送り出した教え子たちも一緒だ。
まあ、下忍として任務をこなしている者たちは、担当している上忍師が対処できるからいい。
そこまで考え、イルカは仕事───書類の内容をチェックすればいいだけなのだが───をとても続ける気にはなれず、握っていたペンをくるりと指先で回した。
一度は卒業したものの、下忍選抜に落ちてアカデミーに戻された者が1人が、去っていった。
本人は考えた末に、きちんと覚悟をしての決定だったからか、からりと笑って。
けれど残された者たちには、いずれは取らねばならない決断だからか、重く圧し掛かっているようだった。
今更ながら、彼らも忍者の残酷な不文律───その一端に、触れて戸惑っているのだろう。
望む者全員が忍になれるワケではない。
なったとしても、先へ進める者は少なく、生き残って名を上げる者はもっと少ない。
こういった選別の繰り返しは、どの世界でも同じはずだ。
けれど、忍はそれが生死に直結している。
家柄も才能のあるなしも、関係はない。
どんな形であれ、最後まで生き残った者だけが……。
「イルカせんせい?」
ふいに傍らから、声がした。
そちらをみやると、最近よく見かけるようになった人物が立っている。
「……カカシ、さん?」
イルカにとって最も印象深く、そして未だに心配のタネである教え子───うずまきナルト。
その上忍師───はたけカカシがアカデミーの教員室に何の用があるのかと考え、思い至るのは一つ。
「ええっと、何か私に御用でしょうか?」
「ええ、ま、用っていっちゃあ用、なんですけどね……」
言いにくそうに視線をそらされて、やはりな、とイルカは心の中で呟いた。
多分、アカデミーでもおちこぼれていたナルトのことだろう。
あの子はやる気だけはあるのだが、基礎の無さと望みの高さで空回りをして失敗を繰り返すのだ。
「あの」
「ええっとですね……」
同時に言い出し、イルカは口をつぐむ。
カカシは、何故か手にしていた紙コップを差し出した。
「どうぞ」
「え? あ、ありがとう……ございます……」
慌てて受け取った手がひやりとする。
アイスココアだった。
何故、と問い返そうとするイルカへ、カカシはふわりと微笑んで、告げる。
「お誕生日おめでとーございます」
「え?」
なんで、と問い返す前に、もうカカシの姿は消えていた。
「そっか……」
今日だったのかと、イルカは一人ごちる。
[Suite Sweetness]組曲、甘味
【了】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2005/05/15
UP DATE:2005/06/01(PC)
2009/05/26(mobile)
RE UP DATE:2024/08/13