バースデーがのしかかる
【EAT OR WEIGHT】
〜 食べ物編 〜
[バースデーがのしかかる]
「イルカせんせーえ、開けてくださーい」
間延びした声を訝しげに聞きながら、イルカは玄関へと向かった。
いつもなら鍵をかけていようが、お構いなしに上がりこんでくるのに、と。
「珍しいですね。今日に限って、どうしたっていうんです……」
戸を開けた瞬間に、言葉を失う。
できることなら、戸も鍵も閉めて、知らぬ振りをしてしまいたかった。
それができなかったのは、無駄に優秀な上忍がすばやく戸の内側に身体を滑り込ませてきたせいだ。
「イルカ先生、おたんじょーびオメデトーゴザイマスー」
それと、妙に浮かれているカカシの腕に抱えられた、ほのかに甘いにおいを漂わせた、白く巨大な箱。
「……あ、ありがとう、ございます……」
酷く嫌な予感を覚えながらも律儀に返すイルカを、ずんずん部屋の奥へ追い詰めながらカカシは上機嫌だ。
「いえいえ~。さ、イルカ先生は座っててくださいよ。オレが用意しますから~♪」
家主のイルカを食卓の上座に着かせてその前に持ち込んだ箱を置くと、台所で鼻歌交じりにお茶の用意を始める。
やかんとミルクパンに水を張って、コンロに置いて火をつけ───しっかり火力を必要最小限に調整して、どこからか茶器を出してくる。
イルカは家にはないはずの、ターコイズのティーセットが並ぶ様を力なく見つめた。
「いーい紅茶、見つけてきたんですよ~♪ だから今日は、ゴールデンルールにのっとったロイヤルミルクティーでーす」
カカシはそう言いながら、ティーメジャーでリーフを鍋に入れ、開くのを待つ間にポットやカップにやかんの湯を注いで暖めている。
もちろん、茶葉が開いたら鍋へ加えるミルクも常温にしてあるようだ。
一体、その手際の良さはどこで身に付けたんだろう。
と、胡乱げな目つきでイルカは思う。
そして今、自分の視界の殆どを占めるこの巨大な白い箱だ。
匂いのとおり、これがケーキだとすると、とんでもない大きさになる。
今時、芸能人の結婚式でだってこんなサイズのケーキはお目にかかれないんじゃないだろうか。
だいたい、ウェディング・ケーキなら殆どは作り物だろうが、これは丸々100%、ケーキでしかないはずだ。
───食えっていうのか、これを、オレにっ!?
それも1人で(甘い物は苦手なカカシは員数外である)。
イルカは噴出してきた脂汗を手で拭いながら、対策を考える。
まず、食べ物は粗末にできないイルカとしては、悪くならないうちに食べることを考えた。
1人、では当然ムリなので同僚や教え子たちを巻き込まねばならないだろう。
何故、こんな巨大ケーキがあるのかという説明をするのは(多分、されるほうも)、嫌だがしかたがない。
問題は、これを持ち込んだ当人が承知するかどうか。
きっと承知はしないだろう。
それどころか、子供じみたわがままを発揮して、無茶な条件を突きつけられるかもしれない。
「お待たせしました、イルカ先生~」
さー、食べてくださーい。
と、巨大な箱を開け、カカシは紅茶をサーブした。
「うふふ~ 頑張って作ったんですよ~♪」
「……カカシさん? コレ……」
恐る恐る、イルカは目の前に現れたモノを指し示す。
「あ、もしかしてイルカ先生これ全部食べたら太るとか思ってます? ん~、一応ローファットに作ってますけど、やっぱこの量ですかーらね~」
でも、心配しないでください。
「責任持って、夜の運動にお付き……っ!」
「……こんなモノが、食えるかーーーっ!!!!!」
カカシが頼もしく言い切るより早く、イルカは等身大のケーキをそのモデルもろとも、窓の外へ放り捨てていた。
【了】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2005/05/10
UP DATE:2005/06/01(PC)
2009/05/26(mobile)
RE UP DATE:2024/08/13
〜 食べ物編 〜
[バースデーがのしかかる]
「イルカせんせーえ、開けてくださーい」
間延びした声を訝しげに聞きながら、イルカは玄関へと向かった。
いつもなら鍵をかけていようが、お構いなしに上がりこんでくるのに、と。
「珍しいですね。今日に限って、どうしたっていうんです……」
戸を開けた瞬間に、言葉を失う。
できることなら、戸も鍵も閉めて、知らぬ振りをしてしまいたかった。
それができなかったのは、無駄に優秀な上忍がすばやく戸の内側に身体を滑り込ませてきたせいだ。
「イルカ先生、おたんじょーびオメデトーゴザイマスー」
それと、妙に浮かれているカカシの腕に抱えられた、ほのかに甘いにおいを漂わせた、白く巨大な箱。
「……あ、ありがとう、ございます……」
酷く嫌な予感を覚えながらも律儀に返すイルカを、ずんずん部屋の奥へ追い詰めながらカカシは上機嫌だ。
「いえいえ~。さ、イルカ先生は座っててくださいよ。オレが用意しますから~♪」
家主のイルカを食卓の上座に着かせてその前に持ち込んだ箱を置くと、台所で鼻歌交じりにお茶の用意を始める。
やかんとミルクパンに水を張って、コンロに置いて火をつけ───しっかり火力を必要最小限に調整して、どこからか茶器を出してくる。
イルカは家にはないはずの、ターコイズのティーセットが並ぶ様を力なく見つめた。
「いーい紅茶、見つけてきたんですよ~♪ だから今日は、ゴールデンルールにのっとったロイヤルミルクティーでーす」
カカシはそう言いながら、ティーメジャーでリーフを鍋に入れ、開くのを待つ間にポットやカップにやかんの湯を注いで暖めている。
もちろん、茶葉が開いたら鍋へ加えるミルクも常温にしてあるようだ。
一体、その手際の良さはどこで身に付けたんだろう。
と、胡乱げな目つきでイルカは思う。
そして今、自分の視界の殆どを占めるこの巨大な白い箱だ。
匂いのとおり、これがケーキだとすると、とんでもない大きさになる。
今時、芸能人の結婚式でだってこんなサイズのケーキはお目にかかれないんじゃないだろうか。
だいたい、ウェディング・ケーキなら殆どは作り物だろうが、これは丸々100%、ケーキでしかないはずだ。
───食えっていうのか、これを、オレにっ!?
それも1人で(甘い物は苦手なカカシは員数外である)。
イルカは噴出してきた脂汗を手で拭いながら、対策を考える。
まず、食べ物は粗末にできないイルカとしては、悪くならないうちに食べることを考えた。
1人、では当然ムリなので同僚や教え子たちを巻き込まねばならないだろう。
何故、こんな巨大ケーキがあるのかという説明をするのは(多分、されるほうも)、嫌だがしかたがない。
問題は、これを持ち込んだ当人が承知するかどうか。
きっと承知はしないだろう。
それどころか、子供じみたわがままを発揮して、無茶な条件を突きつけられるかもしれない。
「お待たせしました、イルカ先生~」
さー、食べてくださーい。
と、巨大な箱を開け、カカシは紅茶をサーブした。
「うふふ~ 頑張って作ったんですよ~♪」
「……カカシさん? コレ……」
恐る恐る、イルカは目の前に現れたモノを指し示す。
「あ、もしかしてイルカ先生これ全部食べたら太るとか思ってます? ん~、一応ローファットに作ってますけど、やっぱこの量ですかーらね~」
でも、心配しないでください。
「責任持って、夜の運動にお付き……っ!」
「……こんなモノが、食えるかーーーっ!!!!!」
カカシが頼もしく言い切るより早く、イルカは等身大のケーキをそのモデルもろとも、窓の外へ放り捨てていた。
【了】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2005/05/10
UP DATE:2005/06/01(PC)
2009/05/26(mobile)
RE UP DATE:2024/08/13