ボクの先生はヒーロー

【37 風に吹かれて】
   ~ Can you keep a secret?
[ボクの先生はヒーロー]



 木ノ葉隠れの里がフォックス星人の襲撃を受けてから早数日が経過していた。

 破壊された家屋がさほど多くもなかったこともあり、里の復興は速やかに進んでいる。
 既にあらかたの瓦礫は撤去され、あちこちで新たな施設の建設が始まっていた。

 あの日が緩やかにあるべき日常に上書きされていく様子を確認でもするかのように、病院から自宅までの道のりをのんびりとイルカは歩く。

 同僚ら数人と崩落する建物に巻き込まれて結構な怪我を負ったけれど、入院するほどではなかったし、明日からは通院も必要はないと言われた。
 この数日は傷病休暇扱いになっているが、明日からはアカデミーにも復帰できる。

「なにもかも、元通りだ」

 何かを封じ込めるごとく、無意識に強く握り締めていた右手を見つめて、呟いていた。
 まるで、自分に言い聞かせているようだと自覚しながら。
 
 ただ、一つだけ変わったこともある。

「イルカせんーせ。病院帰りでーすか?」

 いつもこうして、カカシが声を掛けてくるようになった。
 偶然を装っているが、毎日では待ち伏せされているのはなんとなく分かる。

 悪いことでもないから、イルカも追求したりはできないが、気にはなるのだ。

 あの日、イルカを見つけてくれたのが、カカシだった。
 襲撃を受けた場所でもなく、光の巨人に助けられた同僚とも離れ、里の外で1人倒れていたというのに。
 なにも聞かず、応急処置を施してから後輩らしき暗部の手を借りて救護所まで運んでもくれた。

「カカシさん」

「なんですか?」

 労るように、握った手をひかれるのも、あの日からだ。

 聞かれないから、聞けない。

「……帰り、ましょうか」

「はい」

 ひどくもどかしい感情に苛まれはするが、今はまだこれでいいのかもしれない。
 いつか、きちんと向き合える日が来るだろう。
 彼となら。

 それまでの、ささやかな秘密だ。



 【了】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2011/12/01
UP DATE:2011/12/07(mobile)
RE UP DATE:2024/08/10
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