ボクの先生はヒーロー

【35 あの夜を越えて】
[ボクの先生はヒーロー]



 カカシが一瞬の躊躇いを捨てて光の巨人の行く手を阻む術を発動させようとしたその時、遠く空の上で小気味良い破裂音が轟く。

 とっさに見上げた先、浮遊要塞の半ばに小さな穴が開いて4つの人影が放り出された。
 特徴的なそれを、光の巨人が精一杯に腕を伸ばして受け止めてくれたようだ。

「……そーゆー、コト、ね……」

 組んでいた印を解き、カカシは深く息を吐く。
 なんにせよ、一度は味方と思った者を攻撃せずに済んだことと、一番の懸案だった意外性ナンバー1な部下が救出されたことに胸をなで下ろした。

 光の巨人はその手に受け止めた子供たちを静かに土遁で築かれた壁の上に下ろし、ゆっくりと離れていく。
 すぐに医療班が彼らを保護し、戦場から離脱させてくれるだろう。

「シカマルくんたちも脱出完了です」

 いつの間にか自らの《木分身》を要塞に潜入させていたらしいデキた暗部の後輩も、他の下忍たちや攫われた人々の撤退を確認していた。
 
「さーぁて、あちらの切り札はもうないみたいだし、どーしてくれましょーうかね?」

 剣呑な目つきでカカシが見上げ、多くの忍たちも術と武器を構え、反撃の意志を示す。
 浮遊要塞は内部の動揺が漏れ出しているかのように、《木遁》に捕らわれたまま不安定に揺らぎだした。
 航行するに重要な機関を、脱出時にチョウジが破壊した可能性もある。
 どちらにせよ、フォックス星人はこのまま無事に逃げおおせることはできないだろう。

 だが、光の巨人は彼らにとどめを刺そうとはしなかった。
 それどころか、要塞を捉える樹木にそっと触れると、里の忍たちに視線を向けてゆっくりと左右に首を振る。
 この術を解くよう、伝えるかのごとく。

「逃がしてやれ、って?」

 侵略者である彼らを撃退したからと言ってこのまま見逃すことが、後々なにをもたらすのかカカシだけでなく多くの忍が理解している。
 けれど、助けてくれた光の巨人の意志を無碍にすることも、木ノ葉の者にはできなかった。

「まったく、人が良いにも程がありますね」

 暗部の面に苦笑を隠し、樹木の戒めを解く。
 
 解き放たれた浮遊要塞は己の航行能力を確かめるように里の上空を旋回した後、数度瞬いてから彼方へと飛び去っていった。

 ふるさとを失ったフォックス星人がどこへ向かったのかは、分からない。
 そして、彼らが去ったのを見届けてから急速に輝きを失い、空に溶けるように消えていった光の巨人の行方もまた。


 
 【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2011/11/30
UP DATE:2011/12/03(mobile)
RE UP DATE:2024/08/10
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