ボクの先生はヒーロー

【33 強さの意味】
[ボクの先生はヒーロー]



 巨大化した秋道一族が投げる長大な捕り縄を振り切り、姿を消した上で不規則な飛行で逃走を企てるフォックス星人の機動要塞。

 写輪眼でその動向をうかがっていたカカシは傍らの後輩に指示を出す。

「逃がすなよ、テンゾウ」

「簡単に、言ってくれますよねっ! 先輩、はっ!」

《木遁・大樹林の術》

 土中から木々が噴き出すように伸び、中空で何か巨大な物体を掴んだ。

「……こりゃ、また……」

 樹木に覆われてようやく全容が知れた敵要塞の巨大さにカカシは息を呑み、予想以上に張り切らざるを得なかった術の疲れで後輩は息を切らせる。

 浮遊物体は里の半分程の円盤状で、真下からでは上部の様子はうかがうこともできない厚さがあるようだった。

「ん?」

 目を凝らしたカカシには要塞の底部から何かが出てくるのが見える。
 
 遠目には木の幹を伝う蟻の行列に似ているが、それは人と同等の大きさをした山蚕の繭のような物を担いだ木ノ葉の忍たちだ。

「逃がすんじゃないよ、テンゾウ。まだアイツら中にいんだから!」

「分かってますって!」

 木ノ葉隠れの里の人々をまだ内部に残したまま逃れようともがく巨大な要塞を捕獲し続けるのは大変な労力なのだろう。

 それでも、潜入した者を含めて全員が脱出するまでは術を緩められては困る。

「ま、まだ、ですかっ!?」

「あー、まだまだだぁねぇ」

 かなり必死な後輩の問いかけに呑気な声で返しながら、カカシは要塞から逃れ出てくる人々を観察している。

 既にその数はまばらで、新たに救助に加わる者は要塞までは行かずに脱出途中の人々に手を貸していた。

 もう残っている者はいないのだろう。
 だが、カカシの教え子たちの姿はまだない。

 そこへ、今にも消えてしまいそうな淡い輝きをわずかにまとった巨人がゆっくりと近づいていた。

 きっと、もう彼の時間は残り少ないのだろう。
 その力を振り絞って、逃れようとする要塞へ向かって来ている。

「……くそっ!」
 
 カカシはとっさに巨人を足止めできそうな術の印を組んだ。
 しかし一瞬、躊躇する。

 あの巨人は獣から里を救ってくれた。
 目的は多分、フォックス星人なる侵略者を倒す為だろう。

 ならばきっと、この好機を───切り札を失い、逃走を阻まれているこの状況を、見逃すわけにはいかない。

 例えまだ、要塞の中に誰かの大切な存在があったとしても自分ならばそうする、とカカシは考えた。

 だから、躊躇したのだ。
 自らの役目の為に、最後の力で進む巨人の行く手を阻む事を。

 けれど、迷いは一瞬だった。

《水遁・水陣壁》


 
 【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2011/03/03
UP DATE:2011/06/20(mobile)
RE UP DATE:2024/08/10
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