ボクの先生はヒーロー

【29 ひとりでないこと】
[ボクの先生はヒーロー]



 フォックス星人からの支援を受けて狂暴化した獣は凄まじい力を発揮し、光の巨人を腕の一振りで吹き飛ばすように後退させていく。

 あっという間もなく、巨人の身体は里との境に立ち上がった土の防護壁に叩きつけられた。

 その衝撃で里が激しく揺れ、崩れかけで持ちこたえていた建物が完全に倒壊していく。

 壁の上で獣と巨人の戦いを見守っていた忍たちは揺らぐ足場以上に動揺した。

 ようやく気づいたのだ。

 獣の攻撃を受けても巨人の肉体に目に見える傷は、明らかに切り裂かれたような場合ですら残らない。

 その代わり、輝きが失われている。

 現れた時は眩いばかりだった光の巨人の姿は、いまや儚く明滅するホタルの発する光のようだ。

「マズい、かな……」

「ええ……」

 唯一とも言える味方であり、強大で凶暴な獣に対抗しうる光の巨人の劣勢にカカシも焦りを感じていた。
 
 だがそれでも何か手だてはないかと自らの戦歴を振り返り、同時に幾通りもの戦術を模索する。

 獣を直接攻撃できる、または足止めとなる術。

 光の巨人を援護する策。

 思いつく案の中で今最も効果的なのは、フォックス星人から獣への支援を阻むことだろう。

 そう考えたカカシは左目の写輪眼で空を睨む。

 獣を強化される前の姿に戻せたら、まだこちらにも戦いようがあるし、相手に精神的な圧力を掛けられる。

 その為にはまず、未だに所在の掴めない敵の本隊を見つけなければ。

 その時、暗部の伝令が傍らの後輩に近寄り何事かを耳打ちした。

 そして写輪眼を晒した意図を察していた後輩は躊躇いなく、伝令の内容をカカシにも告げる。

「先輩、獣の右上空だそうです!」

 言われた方向を探れば、確かに巨大な物体が浮遊していた。

 しかし、どうやって暗部は見えぬ存在を捜し当てたのか。

「先輩たちが受け持っている下忍たちですよ」

 カカシの疑問に後輩は肩をすくめて話し出す。

「既に潜入し、さらわれた人々を発見したようです。ただ、彼らだけでは全員の救出が難しいとのことで、火影様に救援要請が入りました」
 
「お~や、ま……」

「優秀なルーキーたちで、暗部も形無しですよ」

 呆れを含んだため息をつき、カカシは部下たちを置き去りにしていた事をようやく思い出していた。

「先に行ってな、ては言ったケドさ……」

 まさか、敵の本陣を真っ先に見つけ出すどころか、潜入まで果たしているとは思いもしない。

「んじゃま、かわいい部下たちの援護に行きますかね」

 既に里の全忍に知らせが届いているのだろう。

 動ける者はさらわれた人々の救出に動き出していた。

 日向の者が白眼で位置を確認し、秋道一族は巨大化して捕り縄を見えぬ敵の機動要塞に掛ける。
 その捕り縄を伝い、小隊単位で続々と木ノ葉隠れの忍たちが潜入していった。

 その効果なのだろうか、急速に獣が元の姿に戻っていく。

 この好機を光の巨人は見逃しはしなかった。


 
 【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2011/02/23
UP DATE:2011/02/26(mobile)
RE UP DATE:2024/08/10
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