ショコラ

【少女時間】
   ~ ヒナタ ~
[ショコラ]



 一族が多いと、こういう時、少し困る。

 目の前に広がる光景と、背後でぴったりと閉じた扉の向うの気配に、ひっそりとヒナタはため息を落とした。

 広い屋敷だから、当然厨房も(台所とはいえないほどに)広い。

 その広い厨房が一族の女性陣と甘い匂い、そしてかしましいおしゃべりに占拠されてしまっていた。

 普段は容貌ともあいまって楚々とした、おしとやかなイメージもある日向一族の女性たち。

 だが、こうして集まると流石に女性の集団独特の迫力があった。

 強気なハナビもどこか異様な一族の様子に、怯えたようにヒナタの腕をしっかりと握って離そうとはしない。

 なんと言っても鬱陶しいのは結界まで張ったこの出入り口。

 その扉の向うで一族の男性陣が、それはもうそわそわと落ち着きのない様子でうろついて、聞き耳をたてたりしているのが手にとるように分かる。

 ちなみに、女性陣総出による結界で白眼による透視は不可能な状態だ。
 
「姉さん…」

 ぎゅっと縋ってくるハナビの手を握り返し、ヒナタは互いを勇気付けるためにそっと微笑む。

「大丈夫よ、ハナビ。……さ、始めましょう」

 そう言って、2人分のスペースと材料を確保し、ヒナタはハナビを手伝いながら、チョコレート菓子を作っていく。

 まだ幼いハナビにもできる、火を使わなくていいトリュフを。

 けれどそれは、ハンパな量ではない。

 何しろ一族が多い。

 多すぎる。

 しかも1人とて欠けるわけにはいかない。

 さらに、意中の同級生やら、世話になった上司同僚やらの分もある。

 それらは敢えて出入りの菓子屋に頼むこともある。

 けれど一族の分はそうもいかないのだ。

 一族の男性陣全員がもらえると信じて、厨房の前に勢ぞろいしているのだから。

 そしてその後、うちの奥さんお手製のが、いや娘のが一番だと夜っぴて語り合う……らしい。

 毎年恒例とは言え、日向一族は揃ってイベント好きな一家であった。



 【ホワイトデーに続く】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/02/02
UP DATE:2005/02/20(PC)
   2009/02/09(mobile)
RE UP DATE: 2024/08/01
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