10周年お礼SS

【今日のご飯がおいしいのはあなたが隣にいるからだ】
[10周年お礼:新作(ラブラブ)]



 はたけカカシとうみのイルカが知り合ってから、何年になるだろうか。

 友人と言うにはお互いの立場や戦い生き抜いてきた経歴が違ったけれど、共通の教え子たちに関わる悩みや心労を共有しているからだろう。
 里の者が見かける頻度として月に1度か2度、彼らは酒食を共にしている。
 然程多い訳ではないが、不思議と彼らの交遊は途切れず、続いている。
 そのせいなのか、彼らは時々思い出したように同僚たちから似た疑問を繰り返し投げ掛けられていた。

───なぜ、あの人とそんなに親しくしているのか?

 カカシにはなんの取り柄もなく階級も下の男を気に掛ける物好きさへの呆れや、あわよくば自分がその立場に成り代われるのではという期待に満ちた目で迫る。
 イルカへは上位者との誼を羨んでか侮蔑を含んだ目を向けながら、自分もどうにかその恩恵に預かれないものかと下心の潜んだ顔で擦り寄る。

 正直、2人とも辟易としている。

 カカシとイルカが出会った経緯だとか懇意にしている理由など、この木ノ葉隠れの里に限らず殆どの忍が知っているはずだ。
 あの戦いの最中に何もかも曝け出されてしまったのだから。

 木ノ葉隠れの里で一番の落ちこぼれを何くれとなく世話を焼いてアカデミー卒業を認めたのがイルカで、その後を引き受けて下忍として育てた上忍師がカカシ。

 今や忍世界の英雄と祭り上げられている1人の少年を介して知り合い、当初は誰にも見向きもされなかったあの子供をそれぞれ別の立場で支えて来たのが彼らだ。
 2人にしか分からない共通の苦労も悩みも喜びや楽しみがあって当然。

「……ですから、オレとしては……なーんで、アナタ、との、付き合い、を……他人に、とやかく、言われなきゃ、ならないの、か……分かりません……」
 
 ささやかなイルカ宅の食卓で、カカシはしみじみと呆れを含んだ愚痴を溜息とともに吐き出す。
 普段、顔の下半分を覆い隠している覆面はなく、端整な口元に米粒を付けたまましっかりと咀嚼しながら。

「ま、傍目から見れば、確かに、とも思いますよ。でも、いい加減にして欲しいですよねー?」

 口中の物を飲み込んでからニッと良い笑顔を向けるカカシへ手を伸ばしたイルカは、彼の口元に付いた米粒を取り去った指を自分の口へと持って行く。
 多分、第3者が見ていたら驚愕に恐慌を来たすであろうその仕草を彼らは何の気なしに行い、また受け入れていた。

「鬱陶しく絡んで来る奴らのお陰で、こうしてイルカ先生のご飯食べられるんだと思えば、感謝もしますげど」

 そう言ったカカシは箸を伸ばして根菜と鳥肉の煮物を盛った大鉢から程良く味の染みたレンコンを摘まむと、ひょいと口へと放り込む。
 彼の言葉に軽く頷きながら相槌を打っていたイルカは香ばしく焼いたアジのミリン干しの半身を囓る。
 カカシは煮過ぎていない根菜の歯触りを楽しむように噛み締めながら、続け様に白飯を掻き込んで口いっぱいになっているイルカを面白そうに見やった。

 そもそもイルカの自宅でカカシが食事をするようになった理由が先程からの話題にある。

 始めは互いの都合が付いた時に手のかかる子供たちの近況報告を兼ねて、それぞれの馴染みの飲食店に行っていた。
 しかし、なぜか彼ら2人が食事をしていると外野が酷く煩く、落ち着いて話も出来ないし食事も楽しめない。
 だったら互いの自宅で、となって以来3日と明けずにカカシはイルカの食卓にお邪魔して、それなりに大雑把な男の手料理を時々は手伝いつつ振舞われている。

 その代わりにとカカシが食事を奢るのは10日に1、2度。
 殆どは高級料亭の仕出し弁当や寿司屋の折詰などを持ち込むのだけれど、たまに馴染みの一楽や酒酒屋などに繰り出す事もあった。

 つまり、多くの里の人々の間では時折食事をしているだけと認識されている2人の関係だが、実際は出会ってからずっとほぼ毎日こんな調子なのだ。
 実情を嫌という程知っているごく一部の人間からは生温い視線と「さっさと収まるか玉砕しやがれめんどくせえ」とのお言葉を何度か頂いている。

 その度に、2人して首を傾げていたが。

「……オレたちって、どーいう関係なんでしょうねえ?……」
 
「……さあ?……」

 長年、周囲からは色々と言われて来たが、カカシとイルカにしてみれば、なんのことだかと思う事ばかりだ。

「知人で済ますには近しいし、友人とも違う気はするんですよ。……なんとなくですが」

「同僚というか同胞ですけど、そんな大きな括りじゃねえし、飲み友達っていうか飯友達って訳でもなあ」

 2人揃って同じ任務に着いた過去もあるが、一番はっきりとした繋がりはやはり教え子を通しての物だろう。
 年齢差や立場の違いからただの同僚とも言い難く、親友や悪友でも、ましてや兄弟分でもない。
 下世話に噂されているような友人関係であるハズもなく。

 イルカにとってカカシはどんな立場に居ようがカカシだったし、カカシにしてもイルカは常にイルカだった。
 それ以上でも以下でもない2人の関係に冠される言葉を本人達だって分からずにいる。

「……ただね……」

 いつの間にか空になった茶碗に箸を渡し置き、律儀に「ごちそうさまでした」と顔の前で両手を合わせたカカシは穏やかに微笑む。

「オレはこうして毎日、イルカ先生とご飯食べられたらいいなーとは思ってるよ」
 
「……それ、プロポーズみたいなんで2度と言わんでくださいっ」

 空になった食器を手早く重ね持ったイルカは小さな声で「おそまつさまでした」と返し、逃げるように台所へと片づけに立つ。
 赤面して顔を互いに背けあったまま。



[お題]
*10周年記念のお礼フリー短編として『新作でラブラブ』



 【了】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2014/12/05
UP DATE:2014/12/06(mobile)
RE UP DATE:2024/08/19
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