カカイル3つのお題

【金色夜叉】
   〜カカイル3つのお題〜



 下世話な話なんですけどね、と前置いて話出したのはどちらからだったろうか。

「月を見てるとね、あの台詞が思い浮かぶんです」

 有名な新聞連載小説の最も見せ場となる───互いに思いあっていたはずが、お金持ちに言い寄られて目が眩んだ女に男が手酷く別れを告げる場面。

「今月今夜のこの月を……ってやつですか……」

「それです」

 どういう訳だか、凶事は満月の日に多い。
 二人が何かを亡くした時は、示し合わせたように満ちた月が禍々しく空に輝いていた。

 多くの人が多くを失い、酷く怖れているだろう月なのに。

「どれ程悔いても、恨んでも、月が曇る事なんてないのにって……」

 それだけ、あの男の恨みと失望は深いのだと知れる描写だ。
 しかし、もっと深く傷ついた多くの者の念でもどうにもならないのに、とも思う。

「だけどね、分かるんですよ」

 傍にある人の手に触れて、どちらともなく告げる。
 
「アナタが金にあかせて言い寄る輩に奪われたら、きっとオレもそんな事を言うんだろうなって……」



[お題]
《ダイヤモンド/悪い虫/猫脚》



 【了】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2015/10/09
UP DATE:2015/10/9(mobile)
RE UP DATE:2024/08/19
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