カカイル3つのお題

【黒蝶】
   〜カカイル3つのお題〜



 面倒な任務だな、と愚痴を紛れ込ませた溜息を吐き、カカシは通された座敷で絢爛豪華な襖絵を眺めやる。
 夜であればもっと密やかながら騒がしい人の気配が感じられる場所なのだが、客が帰って女達の寝静まった朝方は酷く静かだ。

 かつてはこのような場所に居着いた事のあるカカシには馴染んだ空気のはずなのに、どこか居心地が悪いのは心の有り様が変わったからだろうか。

「……お待たせをしましてぇ」

 気怠い口調でゆったりと姿を現したのはこの郭で一番格の高い、太夫とか花魁と呼ばれる女だ。
 まだ若い頃に何度か顔を合わせた事もあるが、今は仕事としてここにいる。

「……いえ、こちらこそ、お時間を頂き……」

「ああ、そないに畏らんでくださいなぁ。知った仲ですしぃ、時間もありまへんのやろぉ」

「……ええ。では、早速ですが、こちらがあの方からの書状と贈り物です。お納めを」
 
 木ノ葉隠れの里で屈指の上忍であるカカシを指名し、郭の遊女に恋文を届けるなんて金の使い所を間違った依頼をしてきたのは他国の大名のバカ息子らしい。
 一応、あちらの体面もあるから色々と伏せられての依頼だったが、優秀な木ノ葉の任務受付に携わる忍はちゃんと裏を取っている。
 ひょっとしなくても、過去にこの遊女と関わった全ての人間すら把握されているだろう。

「……あの坊ちゃんも、ええ加減目ぇ覚まして貰わんとあきまへんわなぁ」

 くしゃり、と書状を握り潰した女は一緒に差し出された小箱を一瞥。

「手紙も贈り物も、坊ちゃんに返しておいておくれませ」

 小箱の中身は以前、女が強請った黒真珠の帯留だと書状にある。

「あっちが強請ったのは黒蝶ですよぉ。そんな染め物も見分けられへんお坊ちゃんに引かれたとあっちゃ郭の名に泥を塗りますわぁ」

「……そう、ですか。では、そのようにお伝えします……」

「あぁ、兄さん」

 そそくさと突き返された品々をまとめて立ち去ろうとしたカカシを、女は呼び止める。

「さんざ、惚気てた黒蝶のお人とは、相変わらずですかぃ?」

 そう、人の悪い笑顔で問うて。
 


[お題]
《黒真珠/第3者/郭(くるわ)》



 【了】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2015/10/09
UP DATE:2015/10/09(mobile)
RE UP DATE:2024/08/19
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