カカイル3つのお題

【遠い約束】
   〜カカイル3つのお題〜



 雨上がりに、泥だらけの子供を拾った。

 初めてじゃない。

 なんでか、この子供は雨の度に脱走騒ぎを繰り返す。

 理由を訊ねても、頑として口を割らない。

 いい根性をしている、と思う。

 同じ子供とはいえ、上忍相手にまったく物怖じしないのだから。

「ねえ」

 足の止まりがちな子供を引きずって歩きながら、何度となく繰り返してきた問答を口にする。

「なんで、雨の日なの?」

 普段はやんちゃで明るくて友達に囲まれて笑っているのに、雨が降るとひっそり施設を抜け出していく。

 そして里の外れでびしょ濡れか、泥だらけで見つかるのだ。

「そんなんじゃ、風邪ひいちゃうデショ?」

「へーき」

「夏風邪はバカがひくんだ~ヨ」

「……知ってる」

 突っかかってくるかと思った言葉も流される。

 手強い相手に出そうになったため息をこらえ、空を仰ぐ。
 
 ため息の度に幸せが逃げるから、代わりに空を見上げろと言われたのはいつだったか。

 逃げる幸せもない時はどうなるんだろう。

「あ」

 雨上がりの青空に大きな虹がかかっていた。

「顔、上げてみ」

 子供の手をひいて促してやれば、大きく目を見開いて駆け出そうとする。

 逃がすわけには行かないから、泥だらけなのに抱き止めてやらねばならなくなった。

「離せっ」

「あ~、ハイハイ」

 どうやら、お目当てはアレだったらしい。

 でも、泥だらけになる理由は不明。

「虹なんか追っかけて、どーすんの? イルカくん」

「離せよっ、消えちゃうだろっ!」

「理由、教えてくれたらネ」

「……虹の麓に、行くんだっ」

 聞いたことがある。

 虹の麓に宝物が埋まっていると。

 でも、虹に麓なんかないとも知っている。

 さて、どうしたもんかなぁと考えてる間に、虹は消えていく。

 多分、この子供が泥だらけになって探しているものは、この世にないものだ。

「……今度、」

 亡くしてしまった、大事ななにか。

「オレも一緒に探すから、もう、1人で行っちゃダメだヨ」

 儚い約束。
 
 だけど、自分にできる精一杯。
 


[お題]
《プレゼント・虹・宝探し》



 【了】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2008/11/27
UP DATE:2008/11/28(mobile)
RE UP DATE:2024/08/19
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