カカイル3つのお題

【雨に歌えば】
   〜カカイル3つのお題〜



 しとしとと雨の落ちる暗い日暮れ。

 上忍控え室には、カカシ1人だけだ。

 孤を描く窓際に沿って造りつけられたソファに寄りかかって成年指定の愛読書を繰りながら、平和だねえと呟く。

 だがページを追う目は冴え、心中ではこんなことでいざという時はどうするんだろうかと考えていた。

 いざということなど起らないのが一番いい。

 分かっているし、だったらいいとは思う。

 けれど、そんなことはありえない。

 現に昨日も、今朝も、誰かが英雄となった。

 毎朝、親友と呼ぶかつての仲間に報告へ行く度、新しい名前が慰霊碑に増えていく。

「淋しいねえ」

 何が、とも言えない。

 いつかは自分もそこに名を連ねるだろうか。

 それとも父のように、と考えていたカカシはふと身を起こして窓の外を見下ろす。

 傘を叩く雨音と足音に混じる、途切れ途切れの鼻歌が近付いていた。
 
 何処にでもありそうな見覚えのある雨傘に隠れて、姿は見えない。

 それでも、誰かは分かる。

 その、涙のわけも。

 声をかけたいけれど、そっとしておいてもやりたい。

 だからこっそりと、すすり上げる嗚咽に途切れる鼻歌に声を合わせた。
 


[お題]
《デュオ・雨傘・涙のわけ》



 【了】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2006/10/16
UP DATE:2006/10/16(PC)
   2008/11/28(mobile)
RE UP DATE:2024/08/19
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