カカイル3つのお題

【もう一声】
   〜カカイル3つのお題〜



「お願い、先生っ。もう一声ーっ!」

「もう一声って、安売り商品かっ!」

 木ノ葉隠れの里では今日も今日とて、お馴染みの怒声が響き渡った。

 だが、しばらく前までよく聞こえていた忍者アカデミーではなく、任務受付所から。

 しかも相手は悪戯小僧よりたちの悪い里屈指の上忍。

「あなたに就いてもらう短期の任務はそれが限界です」

 ごほんと咽喉を整えたイルカは、さっきとは打って変わった余所行きの声で微笑んだ。

 けれどその微笑に、受付所の空気がびしりと凍りつく。

「これ以上ごねるようなら、こちらの任務に就いて頂きましょう」

 ひらりと突きつけたのは、とてつもなく過酷な長期任務。

 殆ど、死んできやがれと言っているようなもの。

「どうされますか?」

「……さ、先の任務に就かせて頂きマス……」

「はい。では、よろしくお願いします」
 
 がくりと全身でうなだれたカカシは押し付けられるように依頼書を受け取り、背を向けた。

 重い足取りでずりずりと出口へ向けて歩き出す。

「カカシさん」

 イルカの声にゆるりと振り返る姿は、恐怖映画の化け物の様。

「その任務の後、オレも休暇を取れるようにしてあります」

 だから、今年こそ一緒に過ごしましょうね。

 そう、小声でイルカが付け加えると、みるみるカカシが生気を取り戻していく。

「はいっ! 頑張ってきますっ」

 ぼふん、と張り切って去ってゆく上忍を、受付所にいた他の忍びたちは固まったまま見送った。

「……ようやく行きおったか……」

 3代目火影が重苦しい空気を吐き出すように呟くと、ようやく人々は息を吹き返して動き出す。

 1年前、おつき合い1周年の記念日が任務が長引いてお流れになってしまったことは公然の秘密である。

 今年はどうやらリベンジにと奮発したらしく、カカシがイルカや3代目に2人一緒のお休みを強請る場面が里中で目撃されていた。

 当初は跳ね除けていたが、結局この有様。

 しかし、里の忍びたちのことを思えば正解だったかもしれない。
 
「来年は、このようなことのないようにせぬとな……」



[お題]
《流れる・2年目・セカンドチャンス》



 【了】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2006/10/07
UP DATE:2006/10/07(PC)
   2008/11/28(mobile)
RE UP DATE:2024/08/19
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