カカイル3つのお題

【限りある日常】
   〜カカイル3つのお題〜



「イルカ先生、好きデス」

 唐突に、カカシはそんなことを言う。

 どこであろうと、誰がいようとお構いなく。

 だからイルカは困るのだ。

「好きですってば」

「分かってますよっ。何度も言わんでください。こんなところで」

 イルカの見渡す景色は里の外れへ向かう、のどかな農道。

 実りを刈りいれる人々がさわさわとそよぐ黄金色の畑で働いていた。

 人目も外聞も気になるのが普通だろう。

「こんなところだから言いたかったんでーす」

 けれどカカシの見上げる空は高く晴れ渡って、ただ雲が流れている。

 渡りの群れが行過ぎるのと同じくらい、働く人々の声は遠い。

「イルカ先生」

「なんですか」

 きっと、他の誰にも聞こえない。

 そして、繋がれた手も見えるはずがない。

 今は、2人きりの世界。

 それでも、またカカシは同じ言葉を繰り返す。

「大好きデス」

 高く晴れた空に溶けてゆくその言葉を言い募るのは、この限りある日常をいとおしいと思うから。



[お題]
《言葉・マンネリ・高く晴れた空に》



 【了】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2006/10/01
UP DATE:2006/10/01(PC)
   2008/11/28(mobile)
RE UP DATE:2024/08/19
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