Metamorphosis Game

【艶の宴】
[Metamorphosis Game -2]



「イルカ。お前、来週誕生日なんだって?」

 受付で纏めた書類を決裁のために持ち込んだ執務室からの去り際、よくこうして5代目火影は世間話を振ってくる。

「はい。けど、よくご存知ですね」

 忙しい仕事の合間の気晴らしになるのだろうと、イルカもそう忙しくなければ付き合うようにしていた。

「ああ、なんかカカシが浮かれて吹聴してたからな」

 2人で休み取れたからイチャパラすんだーとかなんとか。

 もはやカカシとイルカの関係ごときでは動じない綱手姫は事も無げに言ってくれる。

 だが、当の本人であるイルカにしてみれば、噴飯もの。

───あんのバカ上忍っ

 なんとか、火影の御前で里屈指の上忍への罵詈雑言を叫ぶことだけは留まった。

 ただその分、心の奥底で怒りの業火が燃え盛り、引きつったこめかみと震えるほど握り締めた拳にはくっきりと血管が浮き出している。
 
 そんなイルカの怒りも流し、綱手は書類に判を付く手も止めずに会話を続ける。

「良かったら、アタシにも祝わせてもらおうか。お前には色々と面倒もかけてるしな」

 それに3代目はアンタをかわいがってって、毎年、誕生日を祝ってたって聞いてる。

「その祝い事もアタシが引き継ごうじゃないか」

 火影の地位とイルカの誕生日は同列に扱うことではないけれど、そこに綱手の気遣いを感じてイルカは嬉しくなった。

 けれど、それに甘えるわけにもいかないと辞退しようとして、できなくなる。

「それとも、アタシの酒は飲めないかい」

 じっとりと座った目と、低い声。

 イルカは悟った。

 自分の誕生日は飲み会をひらくダシなのだと。

 そして、拒否権はないのだと。

「……い、いえっ」

「よーしっ! じゃ、店予約しないとなー。おーい、シズネー。あ、場所決まったら連絡するから、楽しみにしてろよ」

 書類の決裁を後回しに、上機嫌で店の選定に入る綱手に突っ込む気力と勇気はイルカにはない。

 誕生日前日、綱手からの招待状を受け取ったイルカはしばし放心状態となった。

 横合いから覗き込んできたカカシも同様に固まったことから、これは正しい反応なんだなと妙に冷静な自分もいたのは確かだ。

 そして、さてどうしようかと考える。

 折角の綱手からの招待だ。

 断ることはできないだろう。

 だが、この条件は聞いていなかった。

「「……これを理由に欠席したら、どうなりますかねえ……」」

 大の男が2人揃ってため息混じりにそう言い合うのが精一杯。

 情けないが、逆らうことはできそうにない。

 なにしろ相手は里長。

 伝説の三忍の1人。

 そしてこの世で最も美しく、強い女性だ。

 よって、誕生日の夜、イルカとカカシは綱手が用意してくれた宴席にいる。

 ともに、舞姫の黒金と白銀の姿で。

 見渡す座敷は見知ったくのいち───それも酒豪で酒乱、ばかり。

 今夜はイルカ───否、黒金の誕生祝いの宴席と銘打った、くのいちを慰労する飲み会なのではないだろうか。

 上座に並んで所在なげに座った2人の前に、機嫌よく出来上がった綱手が銚子を手に擦り寄ってくる。

「どうしました、舞姫がた。杯がすすんでいないようだが?」
 
 対外的な柔らかい言い方だが、目は『アタシの酒が飲めないっていうのかい?』とすごんで来ていた。

「い、いえっ、そんなことはありませんっ。ちゃんと頂いてますわっ」

「わ、わたくしはまだお酒を頂く歳ではありませんのでっ」

 黒金はほらと言わんばかりに手にしていた杯を干し、白銀は少女の姿を理由に酔っ払いをかわしにかかる。

「誰もお酌にこないのだから仕方ありませんわ。さ、黒金さま、どうぞ」

「白銀ちゃんはーぁ、甘ぁい物のほうが、いいわよねえ~」

 だが、紅が一升瓶を手に、別の方向からはアンコが大皿いっぱいのアンコ餅を掲げてにじり寄ってくる。

 イルカとカカシはもはや覚悟を決めるしかなかった。



 【了】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2006/05/18
UP DATE:2006/05/22(PC)
   2008/11/29(mobile)
RE UP DATE:2024/08/07
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