イルカ外伝
【幼な恋】
〜イルカ外伝〜
[イル誕06]
「「「「「「誕生日おめでとう、イルカッ!」」」」」
通された部屋に足を踏み入れた途端、大勢の祝いの言葉と色とりどりの紙ふぶきが降り注ぐ。
予想していたとはいえ、ここまで盛大になるとは思っていなかったイルカはたじろぎを隠せなかった。
何しろここは里長である火影の邸宅。
部屋も料理もだが、集まった顔ぶれがただの下忍1人の誕生会という規模ではない。
いまや上忍や特別上忍として働くようになった顔見知りが全員、揃っている。
「さあ、イルカや。お入り」
火影が背を押してくれ、仲のいいアンコやハヤテが手を引いて部屋へ招き入れてくれた。
「主役のアンタがいないと、なーんにも食べられないんだから、さっさとしなさいって」
「みなさん、君を祝いたくってずっと待ってるんです」
主賓の席までひきずられ、座らされたところでグラスを渡され、再び祝いと乾杯の声が掛かる。
「うみのイルカくん、13歳の誕生日を祝してーっ」
「「「「「「乾杯ーっ!」」」」」」
渡されたグラスを申し訳程度に掲げ、礼を言う。
「あ、ありがとう、ございます……」
けれど、グラスから漂う芳香は明らかにアルコール。
ちらりと周囲を伺うが、誰もそんなことは気にしていない。
それどころか、突如現れた紅がだぼだぼと溢れるまで種類の違う酒を注ぎ足してくる。
「どーしたのぅ? イルカちゃーん。全然飲んでないじゃなーい」
更に別の瓶を傾けようとした紅の手をアスマが止めてくれなければ、どうなっていたことか。
「紅、オメエは飲みすぎだっ」
「あら、だってぇ。あ、そうだ。コレ、プレゼントよ、イルカちゃん♪」
イルカの前に小さな包みを置いた紅の手がイルカの頬を撫でていった。
アスマも似た包みを机におき、紅の襟首を掴んで離れていく。
それをきっかけにして入れ替わり立ち代わり、次々に誕生祝いが積まれていった。
「イルカッ、オレからはコレをやろうっ☆」
「改めて、お誕生日、おめでとうございます。これ、気に入って貰えれば嬉しいです」
「こいつはオレからだ」
「アタシからもあるわよー! ありがたく思いなさいっ」
次々にやってくる1人1人に礼を述べていると、イルカはしまいにはヘトヘトになってしまう。
咽喉の渇きにうっかり手近なグラスを口につけて、一瞬、しまったと思った。
けれど、アルコールだったハズの中身は甘い炭酸水に摩り替わっている。
「いつのまに?」
誰かが気を利かせてくれたのかと周囲を見渡すが、そういった人は見当たらない。
ただ、そのグラスの傍らには深い藍色の紐で束ねられた野の花が置かれているだけだった。
【了】
‡蛙女屋蛙娘。@iscreamman‡
WRITE:2006/05/24
UP DATE:2006/06/01(PC)
2009/06/25(mobile)
RE UP DATE:2024/07/29
〜イルカ外伝〜
[イル誕06]
「「「「「「誕生日おめでとう、イルカッ!」」」」」
通された部屋に足を踏み入れた途端、大勢の祝いの言葉と色とりどりの紙ふぶきが降り注ぐ。
予想していたとはいえ、ここまで盛大になるとは思っていなかったイルカはたじろぎを隠せなかった。
何しろここは里長である火影の邸宅。
部屋も料理もだが、集まった顔ぶれがただの下忍1人の誕生会という規模ではない。
いまや上忍や特別上忍として働くようになった顔見知りが全員、揃っている。
「さあ、イルカや。お入り」
火影が背を押してくれ、仲のいいアンコやハヤテが手を引いて部屋へ招き入れてくれた。
「主役のアンタがいないと、なーんにも食べられないんだから、さっさとしなさいって」
「みなさん、君を祝いたくってずっと待ってるんです」
主賓の席までひきずられ、座らされたところでグラスを渡され、再び祝いと乾杯の声が掛かる。
「うみのイルカくん、13歳の誕生日を祝してーっ」
「「「「「「乾杯ーっ!」」」」」」
渡されたグラスを申し訳程度に掲げ、礼を言う。
「あ、ありがとう、ございます……」
けれど、グラスから漂う芳香は明らかにアルコール。
ちらりと周囲を伺うが、誰もそんなことは気にしていない。
それどころか、突如現れた紅がだぼだぼと溢れるまで種類の違う酒を注ぎ足してくる。
「どーしたのぅ? イルカちゃーん。全然飲んでないじゃなーい」
更に別の瓶を傾けようとした紅の手をアスマが止めてくれなければ、どうなっていたことか。
「紅、オメエは飲みすぎだっ」
「あら、だってぇ。あ、そうだ。コレ、プレゼントよ、イルカちゃん♪」
イルカの前に小さな包みを置いた紅の手がイルカの頬を撫でていった。
アスマも似た包みを机におき、紅の襟首を掴んで離れていく。
それをきっかけにして入れ替わり立ち代わり、次々に誕生祝いが積まれていった。
「イルカッ、オレからはコレをやろうっ☆」
「改めて、お誕生日、おめでとうございます。これ、気に入って貰えれば嬉しいです」
「こいつはオレからだ」
「アタシからもあるわよー! ありがたく思いなさいっ」
次々にやってくる1人1人に礼を述べていると、イルカはしまいにはヘトヘトになってしまう。
咽喉の渇きにうっかり手近なグラスを口につけて、一瞬、しまったと思った。
けれど、アルコールだったハズの中身は甘い炭酸水に摩り替わっている。
「いつのまに?」
誰かが気を利かせてくれたのかと周囲を見渡すが、そういった人は見当たらない。
ただ、そのグラスの傍らには深い藍色の紐で束ねられた野の花が置かれているだけだった。
【了】
‡蛙女屋蛙娘。@iscreamman‡
WRITE:2006/05/24
UP DATE:2006/06/01(PC)
2009/06/25(mobile)
RE UP DATE:2024/07/29
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