White Christmas
【White Christmas】
[スケアクロウ = iscreamman 記念]
25日、午前0時。
待ち合わせの時間は、とうに過ぎている。
けれど、約束の場所に想う人の姿はない。
見下ろす里は、いつもより華やかに煌めき、多くの人が夜を楽しんでいた。
仲間と、家族と、恋人と。
今夜、カカシに任務はない。
昼間に下忍の部下たちと商店の歳末売出しを手伝い、夕方から夜半には老人に変化しての届け物をやらされた。
いつものごとく、張り切り過ぎて空回りするナルトに手を焼き、ランクの低さにやる気のないサスケを煽り、2人の間でくるくる表情を変えながらも任務をこなすサクラがキレないよう気を使った。
正直、精神的な疲労は戦場と変わらない。
───ま、誰も悲しい想いしなくて済むのは、ありがたいな……
冷たい鉄柵にもたれ、夜空を見上げる。
空気が澄んで、星が近い。
落ちてきそうだ。
約束を交わした日を、思い返す。
アカデミーからの帰り道に偶然───を装って、声をかけた。
『24日の夜、お暇でしたらデートしませんカ?』
軽い調子で言ったが、心臓は張り裂けんばかりに高鳴って、手には酷い汗をかいていた。
情けなくもあの人を見られなくて、空なんか見上げていたのだ。
いくら待っても返事がなくて、思い切って見返すと隣を歩いていた人はずっと後ろに立ち止まっていた。
真っ赤な顔で、うつむいて。
『……ダメ、ですか?』
『そんなことっ!』
『じゃあ、24日の夜、10時に茶通りの火影橋で』
その頃には、お互い任務も終わってるデショ。
そう言ったら、ほころぶように笑った。
『はい』
こうして、あの人のことを思い返すと熱くなる胸に実感する。
彼が、好きなのだと。
だからこんな、待ちぼうけの間すら愛しい。
何かあったのではないかと不安にもなる。
けれど、それ以上に彼を想う時間と同じだけ、自分が想われていると知っている。
きっとあの人は遅れたことを気にしてくれているはずだ。
どうやって、この時間を埋め合わせようか。
それとも、まだ自分は待ってくれているのか。
ずっと、考えているだろう。
それが、嬉しい。
見下ろすと白い息を吐き、駆けつけてくる人を見つけた。
誰もいない待ち合わせ場所で立ちすくむ、その人にどうしょうもない愛しさがこみ上げる。
もたれていた鉄柵を飛び越え、屋根を駆けた。
「イルカせんせっ」
彼に懐き過ぎな部下のように抱きつく。
よろけながらちゃんと受け止めてくれる。
なんて頼もしい。
「ごめんなさい」
「遅くなって」
2人同時に、詫びの言葉を発してした。
ふっ、と見合わせた笑顔が近づく。
「じゃ、お互い様ってことでー」
「カカシさん……」
ああ、バレてる。
ずっと、遠目に待ち合わせ場所を見ていたことが。
彼より遅れて現れるつもりでいたことが。
「行きましょ」
有無を言わせず、暖かい彼の手を引いて歩き出した。
電飾に飾られた通りをゆっくりと。
さすがにこの時間だから人影は少ない。
全く人目がないわけではないが、手は繋いだまま。
話しもせず、互いを見るでもなく。
地上に無数の星が降り積もったような通りを歩いた。
「まるで」
星の道ですね。
ぽつりと呟かれた声に顔が熱くなる。
「カカシさん」
ごそ、と肩にかけたカバンから片手で引き出した物をふわりと両肩にかけられた。
「風邪なんか、ひかないでくださいね」
彼と色違いで、揃いのマフラー。
満足そうな微笑。
ぎゅっと、握り返される暖かい手。
「かなわないなあ、イルカ先生には」
幸せにしてあげたい。
自分がしてもらった分だけ。
できることなら、それ以上に。
なのに、かなわない。
「イルカ先生」
たからせめて───。
「大好き」
言葉だけでも、返したい。
【了】
‡蛙女屋蛙娘。@iscreamman‡
WRITE:2008/12/20
UP DATE:2008/12/20(mobile)
RE UP DATE:2024/07/28
[スケアクロウ = iscreamman 記念]
25日、午前0時。
待ち合わせの時間は、とうに過ぎている。
けれど、約束の場所に想う人の姿はない。
見下ろす里は、いつもより華やかに煌めき、多くの人が夜を楽しんでいた。
仲間と、家族と、恋人と。
今夜、カカシに任務はない。
昼間に下忍の部下たちと商店の歳末売出しを手伝い、夕方から夜半には老人に変化しての届け物をやらされた。
いつものごとく、張り切り過ぎて空回りするナルトに手を焼き、ランクの低さにやる気のないサスケを煽り、2人の間でくるくる表情を変えながらも任務をこなすサクラがキレないよう気を使った。
正直、精神的な疲労は戦場と変わらない。
───ま、誰も悲しい想いしなくて済むのは、ありがたいな……
冷たい鉄柵にもたれ、夜空を見上げる。
空気が澄んで、星が近い。
落ちてきそうだ。
約束を交わした日を、思い返す。
アカデミーからの帰り道に偶然───を装って、声をかけた。
『24日の夜、お暇でしたらデートしませんカ?』
軽い調子で言ったが、心臓は張り裂けんばかりに高鳴って、手には酷い汗をかいていた。
情けなくもあの人を見られなくて、空なんか見上げていたのだ。
いくら待っても返事がなくて、思い切って見返すと隣を歩いていた人はずっと後ろに立ち止まっていた。
真っ赤な顔で、うつむいて。
『……ダメ、ですか?』
『そんなことっ!』
『じゃあ、24日の夜、10時に茶通りの火影橋で』
その頃には、お互い任務も終わってるデショ。
そう言ったら、ほころぶように笑った。
『はい』
こうして、あの人のことを思い返すと熱くなる胸に実感する。
彼が、好きなのだと。
だからこんな、待ちぼうけの間すら愛しい。
何かあったのではないかと不安にもなる。
けれど、それ以上に彼を想う時間と同じだけ、自分が想われていると知っている。
きっとあの人は遅れたことを気にしてくれているはずだ。
どうやって、この時間を埋め合わせようか。
それとも、まだ自分は待ってくれているのか。
ずっと、考えているだろう。
それが、嬉しい。
見下ろすと白い息を吐き、駆けつけてくる人を見つけた。
誰もいない待ち合わせ場所で立ちすくむ、その人にどうしょうもない愛しさがこみ上げる。
もたれていた鉄柵を飛び越え、屋根を駆けた。
「イルカせんせっ」
彼に懐き過ぎな部下のように抱きつく。
よろけながらちゃんと受け止めてくれる。
なんて頼もしい。
「ごめんなさい」
「遅くなって」
2人同時に、詫びの言葉を発してした。
ふっ、と見合わせた笑顔が近づく。
「じゃ、お互い様ってことでー」
「カカシさん……」
ああ、バレてる。
ずっと、遠目に待ち合わせ場所を見ていたことが。
彼より遅れて現れるつもりでいたことが。
「行きましょ」
有無を言わせず、暖かい彼の手を引いて歩き出した。
電飾に飾られた通りをゆっくりと。
さすがにこの時間だから人影は少ない。
全く人目がないわけではないが、手は繋いだまま。
話しもせず、互いを見るでもなく。
地上に無数の星が降り積もったような通りを歩いた。
「まるで」
星の道ですね。
ぽつりと呟かれた声に顔が熱くなる。
「カカシさん」
ごそ、と肩にかけたカバンから片手で引き出した物をふわりと両肩にかけられた。
「風邪なんか、ひかないでくださいね」
彼と色違いで、揃いのマフラー。
満足そうな微笑。
ぎゅっと、握り返される暖かい手。
「かなわないなあ、イルカ先生には」
幸せにしてあげたい。
自分がしてもらった分だけ。
できることなら、それ以上に。
なのに、かなわない。
「イルカ先生」
たからせめて───。
「大好き」
言葉だけでも、返したい。
【了】
‡蛙女屋蛙娘。@iscreamman‡
WRITE:2008/12/20
UP DATE:2008/12/20(mobile)
RE UP DATE:2024/07/28
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